「詩人の恋」第16曲:昔の嫌な歌
Die alten, bösen Lieder,
Die Träume bös' und arg,
Die laßt uns jetzt begraben;
Holt einen großen Sarg.
昔の嫌な歌、
嫌なひどい夢、
そいつらを今こそ葬ってしまおう、
でっかい棺をもってきておくれ。
Hinein leg' ich gar manches,
Doch sag' ich noch nicht, was;
Der Sarg muß sein noch größer,
Wie's Heidelberger Faß.
その中にたくさん詰め込むのだ、
だが何を入れるのかはまだ言うまい。
棺はもっとでかくなくては、
ハイデルベルクの樽よりもでかく。
Und holt eine Totenbahre
Und Bretter fest und dick;
Auch muß sie sein noch länger,
Als wie zu Mainz die Brück'.
それから棺台と、
頑丈な厚みのある板を持ってきてくれ。
棺台ももっと長くなくちゃならない、
マインツの橋よりも長く。
Und holt mir auch zwölf Riesen,
Die müssen noch stärker sein
Als wie der starke Christoph
Im Dom zu Köln am Rhein.
それと十二人の巨人も連れてきてくれ、
そいつらはもっと強くなければ駄目だ、
ライン川のほとりのケルン大聖堂にいる
力持ちのクリストフォロスよりもね。
Die sollen den Sarg forttragen
Und senken ins Meer hinab;
Denn solchem großen Sarge
Gebührt ein großes Grab.
そいつらに棺を運ばせて
海に沈めさせるのだ。
なぜならこんなに大きな棺には
大きい墓を用意するのが当然だから。
Wißt ihr, warum der Sarg wohl
So groß und schwer mag sein?
Ich senkt' auch meine Liebe
Und meinen Schmerz hinein.
分かるかい、どうしてこの棺が
こんなに大きくて重たいのかを?
ぼくの恋も
苦しみも中に沈めてしまったからさ。
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これでハイネとシューマンによる歌曲集「詩人の恋」の訳が完結した。シューマンは「詩人の恋」Op. 48や「リーダークライス」Op. 24のほかにも多くのハイネの詩に作曲している。この機会にほかのハイネ歌曲の対訳にも挑戦してみたい。
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コメント
完訳おつかれさまです。
アイロニーいっぱいのハイネの詩は歌曲の世界にあいますよね。よく言われることではありますが、シューベルトがもっとはやくハイネの詩に出会っていればと思わざるをえません。
投稿: Pochi | 2006年10月23日 (月曜日) 22時37分
Pochi様、労いのコメントをいただき、有難うございました。
なんとか最後までたどり着きましたが、ハイネの簡潔な言葉に込められた意味を日本語にするのは思ったよりも大変でした。詩を読む人がチクッと感じるようなアイロニーはやはり原詩のまま味わうのが一番なのでしょうが、その数パーセントでも訳詩に反映できればいいなと思いつつ、まだまだ満足のいく訳というわけにはいきませんでした。でもハイネの切り詰めた言葉の選択は超一流だなとあらためて知ることが出来て大きな収穫でした。
シューベルトのハイネ歌曲集はたった6曲だけですが、残してくれただけでも後世の人にとってはとてもありがたいことですね。この6曲はシューベルトの新しい境地が開拓されていて、もっと長生きしていたらという気にさせられますね。
投稿: フランツ | 2006年10月23日 (月曜日) 23時07分
おくればせながら完結おめでとうございます。色々ハッとさせられる訳語の選択もあって楽しませて頂きました。
シューマンが続くようですが、できれば詩人の恋に入れる予定だった数曲(「おまえの頬を寄せよ」や「ぼくの馬車はゆるやかに」など)も取り上げて頂けると嬉しいです。私はヘフリガー/小林道夫の盤でこの曲を聴きましたが、詩人の恋に入れられたものに比べても遜色ないように思いました。
これに限らず、ハイネの「抒情小曲」に取り上げられた詩、詩の順番に並べて誰がどの曲を付けたか見るとけっこう興味深いですね(「はすの花」もこの詩集です。それに「歌の翼」も)。私の方はこの詩集から近々チャイコフスキーの「なぜバラは蒼白い」を取り上げる予定です。ハイネの詩は本当に多くのロシアの作曲家にも取り上げられていて興味深いところです。
投稿: Fujii@歌曲会館 | 2006年11月 5日 (日曜日) 10時31分
Fujiiさん、こんにちは。
「詩人の恋」シリーズ、最後までお付き合いくださり、有難うございました。Fujiiさんをハッとさせる箇所があったのでしたらとてもうれしいです。
おっしゃるように「詩人の恋」に入りそびれた4曲も含めて、この機会にハイネ-シューマン歌曲をまとめて訳してしまおうと考えています。完結まで時間はかかると思いますが、ほかの記事の合間に少しずつ続けようと思います。
Fujiiさんがお聴きになったというヘフリガー&小林道夫の演奏は残念ながら私はまだ聴いていません。でも芯があり、誠実な表現をするヘフリガーのことですからハイネ歌曲に合っていそうですね。小林さんのシューマンも聴いてみたいです。
それからトマス・ハンプソンとサヴァリッシュのオリジナルバージョンの「詩人の恋」という録音も面白いです。「おまえの頬を寄せよ」などの4曲も含めた20曲バージョンなのですが、現在の形と歌の旋律もピアノもかなり違いがあるのです。現在の形がいかに見事な形に推敲されたのかを実感できますが、シューマンの作曲の道筋を知る意味でも興味深い録音でした(かつてEMIから出ていました)。
チャイコフスキーのハイネ歌曲も楽しみにしております。逆にドイツ語圏の作曲家がプーシキンの詩(訳詩でも)に作曲したりということはないのでしょうか。もしありましたらいずれご紹介いただけたらうれしいです。
投稿: フランツ | 2006年11月 5日 (日曜日) 18時43分