バーバラ・ボニー個人的都合で引退?
前回、バーバラ・ボニーのDVDの記事を書いていた時には全く知らなかったのだが、8月1日付けのIMGのサイトで発表されたところによると、個人的都合(personal circumstances)により、ボニーは今後の演奏活動を行わないとして、すでに決まっていた予定をすべてキャンセルしたそうだ。単に一時的な休業というわけではなく、どうやら引退ということのようだ。50歳を迎えて心境の変化があったのか、それとも健康上の理由なのか真相は分からないが、いずれにしても彼女の下した結論はそれなりの決意があってのことなのだろう。ただ、これから円熟期に入ろうという時に突然聴けなくなってしまったのは残念でならない。
http://www.playbillarts.com/news/article/5065.html
以前一度だけ彼女の実演をヘルムート・ドイチュの共演で聴いたことがあるが、その時の黒いドレスに身を包んだ凛とした舞台姿が今でも印象に残っている(ブラームスやバーバーが歌われた)。来年も来日の予定があったらしいのだが、もう実演に接することは出来なくなってしまった。もっと聴いておけばよかったと悔やんだところで後の祭りである。
彼女の歌曲録音の最も初期のものはピアニスト、コルト・ガルベンのプロデュースによるDGのツェムリンスキー歌曲集だろう。それに続き、パーソンズのピアノによるR.シュトラウス&ヴォルフ歌曲集がリリースされると彼女の名前が一気に知られるようになり、その後、モーツァルト、シューベルト、メンデルスゾーン姉弟、シューマン夫妻、リスト、ヴォルフ「イタリア歌曲集」、フォレ、北欧歌曲集などが次々に録音され、名実ともに歌曲演奏の第一人者となった(私が聴いた中では、特にメンデルスゾーンとシューマンが素晴らしかった)。
彼女はオペラも宗教曲も歌うが、オペラに関してはあまり貪欲にあれこれ歌おうという感じではなかったようだ。教育活動にもっと時間を割きたいというようなことを確か言っていたと思うので、演奏だけの人生というものに疑問を感じていたのかもしれない。
モーツァルトの息子クサーファーの歌曲集が最近リリースされたのでいずれ入手したいと思うが、それより前だが比較的最近にリリースされた録音に"My name is Barbara"と題されたイギリス&アメリカ歌曲集がある。このタイトルは、バーンスタインの自作詞による歌曲の曲名であり、同時にボニーの名前「バーバラ」にも掛かっている。共演はマルコム・マーティノーで、クィルター、グリフェス、コープランド、ブリテン、バーンスタイン、バーバーのまとまった歌曲集ばかりが選ばれている。私はクィルターの歌曲集の1曲目"Weep you no more, sad fountains"をアーメリングの録音で知り、大好きなのだが、ボニーが歌うとまるで別の曲のように響く。前者はしみじみと慈しむように弱声で聴かせ、後者はつやのある美声(若干渋みを増したが)で旋律美を浮かび上がらせる。
ボニーの演奏はみずみずしく余裕をもって響くその透明な(だが無色ではない)歌声がなんとも魅力的だ。馴染みのない曲たちが彼女の歌でどれほど魅力を増していることか。そういう意味でも稀有の存在だった彼女の演奏をあらためてじっくり味わってみたいと思う。
"My name is Barbara"
Barbara Bonney(S) Malcolm Martineau(P)
録音:2005年2月21~24日、St Martin's, East Woodhay, Hampshire, England
ONYX: ONYX 4003
クィルター(Roger Quilter: 1877-1953)/7つのエリザベス朝抒情詩"Seven Elizabethan Lyrics" (Weep you no more; My life's delight; Damask roses; The faithless shepherdess; Brown is my Love; By a fountainside; Fair house of Joy)
グリフェス(Charles T. Griffes: 1884-1920)/フィオナ・マクラウドの3つの詩"Three poems of Fiona Macleod" (The lament of Ian the Proud; Thy dark eyes to mine; The rose of the night)
コープランド(Aaron Copland: 1900-1990)/4つの初期歌曲集"Four early songs" (Night; A summer vacation; My heart is in the East; Alone)
ブリテン(Benjamin Britten: 1913-1976)/この島国でOp.11"On this island" (Let the florid music praise!; Now the leaves are falling fast; Seascape; Nocturne; As it is, plenty)
バーンスタイン(Leonard Bernstein: 1918-1990)/ソプラノとピアノのための5つの童謡集「音楽なんて大嫌い!」"I hate music!" (My name is Barbara; Jupiter has seven moons; I hate music!; A big Indian and a little Indian; I'm a person too)
バーバー(Samuel Barber: 1910-1981)/4つの歌Op.13"Four songs" (A nun takes the veil; The secrets of the old; Sure on this shining night; Nocturne)
| 固定リンク | 0
「音楽」カテゴリの記事
- ブラームス「嘆き」(Brahms: Klage, Op. 105, No. 3)を聴く(2024.09.14)
- エリーの要点「美」(Elly's Essentials; “Beauty”)(2024.09.07)
- ジークフリート・ローレンツ(Siegfried Lorenz)逝去(2024.08.31)
- エリーの要点「25年前から乗っているトヨタ車」(Elly's Essentials; “25 year old Toyota”)(2024.08.24)
「CD」カテゴリの記事
- 歌曲録音の宝の山-Hyperion Recordsのサブスク解禁(2024.03.30)
- エリー・アーメリング/バッハ・エディション&フィリップス・リサイタル(Elly Ameling: Bach Edition; The Philips Recitals)(2023.03.18)
- 【朗報】アーメリングのPhilipsリサイタル盤、Decca・Philipsのバッハ録音盤の2種類のボックス2023年に発売!(2022.12.29)
- ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau)のDeutsche Grammophon全歌曲録音発売予定(2022.04.10)
- クリスティアン・ゲルハーエル&ゲロルト・フーバー/シューマン歌曲全集スタート(2018.10.26)
「バーバラ・ボニー Barbara Bonney」カテゴリの記事
- バーバラ・ボニー&デイヴィッド・シフリン&アンドレ・ワッツ/シューベルト「岩の上の羊飼い」動画(米・アリス・タリー・ホール)(2016.08.14)
- 明けましておめでとうございます(2011.01.04)
- バーバラ・ボニー復帰(2007.08.05)
- バーバラ・ボニー個人的都合で引退?(2006.09.20)
- バーバラ・ボニー&マルコム・マーティノー/シューマン「詩人の恋」と、“北欧の「詩人の恋」”(2006.09.15)
コメント