シュヴァルツコプフとブラームス歌曲
"Elisabeth Schwarzkopf: A Career on Record" (Alan Sanders & J. B. Steane著)というシュヴァルツコプフのディスコグラフィーが1995年にAmadeus Press (Portland)から出版されている。
この本の序文はシュヴァルツコプフにより書かれており、この出版された年の1月に亡くなった名パートナーのジェフリー・パーソンズを「15年間、世界中で私の伴奏者であり、最もすばらしい親友だった」と悼む。
さらに彼女がパーソンズと「魔王」を録音した際のエピソードを披露し、2人ともこの曲を録音するなどと全く思っていなかった中で、プロデューサーで彼女の夫のウォルター・レッグが突然スタジオのスピーカーで「魔王」を録音するよう指示を出し、行ったこの録音(1966年4月)がシュヴァルツコプフにとって最も素晴らしい録音になったと述懐している。
この本にはこの時点での完全な録音データが掲載されているが、録音されたままお蔵入りになっているデータも含まれているのが興味深い。
シュヴァルツコプフは言葉の意味するところを彫りの深い巧みな語りで表現しつくす点が高く評価されているが、そのせいか音楽のがっちりした構成のもとに形成されることの多いブラームス歌曲は不向きと思われがちだ。
確かに彼女の持ち味が最大限に生かせるのはヴォルフやR.シュトラウスだったりするわけだが、「甲斐なきセレナーデ」や「あの下の谷には」などは彼女の重要なレパートリーに含まれ、前者の見事な演技力や後者の真に心に触れる歌は、向き不向きを越えた感動を与えてくれる。サンダーズによるディスコグラフィーを見ると、1975年にパーソンズとまとまったブラームス歌曲集を録音していることが分かる。
彼女はモーツァルト、シューベルト、シューマン、ヴォルフ、R.シュトラウスについては1枚まるまる1人の作曲家の作品でアルバムを作っているが、ブラームスに関してはこれまでフル・アルバムは見当たらなかった。
この1975年録音のブラームスが、演奏活動晩年の彼女が最初で最後のブラームス・アルバムを作ろうとして録音したであろうことはほぼ確かに思われるが、未だお蔵入りしたままなのは、自己批判の厳しい彼女の了解を得ることが出来なかったのだろうか。
全20曲中12曲は彼女のほかの録音で聴くことが出来ない。選曲を見ると、娘にちなんだ数々が冒頭を飾っているのが目につく(後にルチア・ポップも同じような選曲でブラームス・アルバムを作ったものだったが、ポップの共演者もパーソンズなので、彼のアドバイスがあったのかもしれない)。シュヴァルツコプフお得意の「甲斐なきセレナーデ」が含まれていないのも興味深い。
いつか日の目を見るといいのだが。
Elisabeth Schwarzkopf(S) Geoffrey Parsons(P)(未発売)
録音:1975年12月12~22日, Evangelisches Gemeindhaus, Zehlendorf
ブラームス/娘の歌(最後の審判の日に)Op. 95-6;娘の歌(ああ、そしてわが冷たい水よ)Op. 85-3;娘の歌(夜、糸紡ぎの部屋で)Op. 107-5;娘は語るOp. 107-3;娘の呪いOp. 69-9;郷愁Ⅱ(おお、戻る道が分かればいいのに)Op. 63-8;テレーゼOp. 86-1;永遠の愛についてOp. 43-1;目隠し鬼ごっこOp. 58-1;嘆き(素敵な女(ひと)よ、信じるな)Op. 105-3;子守歌Op. 49-4;ナイティンゲールにOp. 46-4;若い歌Ⅰ(わが愛は緑)Op. 63-5;秘密Op. 71-3;鍛冶屋Op. 19-4;恋人の誓いOp. 69-4;死、それは涼しい夜Op. 96-1;悲しいかな、おまえは私をまたOp. 32-5;おお涼しい森よOp. 72-3;帰郷Op. 7-6
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