アーメリング日本公演曲目1989年
第8回来日:1989年
エリー・アメリング(Elly Ameling) (S)
ルドルフ・ヤンセン(Rudolf Jansen) (P)
10月31日(火)18:30 津リージョンプラザ(リサイタルA)
11月3日(金)19:00 サントリーホール(リサイタルA)
11月5日(日)15:00 ノバホール(筑波)(リサイタルA)
11月6日(月)19:00 ザ・シンフォニー・ホール(大阪)(リサイタルA)
11月9日(木)19:00 長野県伊那文化会館(リサイタルA)
11月11日(土)19:00 藤沢市民会館(リサイタルA)
11月14日(火)19:00 津田ホール(リサイタルB)
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●リサイタルA 共演:ルドルフ・ヤンセン(P)
ドビュッシー(Debussy)/「3つのビリティスの歌」(パンの笛/髪/水の精(ナイヤード)の墓)
ドビュッシー/「ステファーヌ・マラルメの3つの詩」(ため息/むなしい願い/扇)
ドビュッシー/「華やかな饗宴第1集」(ひめやかに/操り人形/月の光)
ラヴェル(Ravel)/「5つのギリシャ民謡集」(花嫁のめざめ/向うの教会で/どの男が/乳香を集める女の歌/なんと楽しい)
~休憩~
ヴォルフ(Wolf)/「スペイン歌曲集」より~憎々し気な眼つきでぼくを見ようと;わたしを花でつつんでね;さあ、もう行くときよ、いとしいひと!;棕櫚の樹をめぐって飛ぶものたち;罪を負い、辛苦のはてにわたしは来ました
ロドリーゴ(Rodrigo)/ポプラの林に行ってきた
オブラドルス(Obradors)/いちばん細い髪の毛で
グァスタビーノ(Guastavino)/バラと柳
トゥリーナ(Turina)/カンターレス
グラナードス(Granados)/控え目なだて男
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※11月11日藤沢でのアンコール
シューベルト(Schubert)/ハナダイコンD752
シューベルト/幸福D433
メンデルスゾーン(Mendelssohn)/歌の翼にOp. 34-2
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●リサイタルB「ゲーテに寄せて」 共演:ルドルフ・ヤンセン(P)
ベートーヴェン(Beethoven)/五月の歌Op. 52-4;悲しみの喜びOp. 83-1
モーツァルト(Mozart)/すみれK. 476
シューベルト(Schubert)/遠く離れた彼女にD. 765
レーヴェ(Loewe)/釣り人Op. 43-1
シューマン(Schumann)/ズライカの歌Op. 25-9
ヴォルフ(Wolf)/私がユーフラテス川を舟で渡っていたとき
シューベルト/ズライカⅡD. 717
レーヴェ/「ファウスト」からの場面Op. 9-9-1
シューベルト/糸車に向かうグレートヒェン(糸を紡ぐグレートヒェン)D. 118
~休憩~
ヴォルフ/アナクレオンの墓
メンデルスゾーン(Mendelssohn)/恋する娘が手紙を書くOp. 86-3
ブラームス(Brahms)/黄昏が上方より下り来てOp. 59-1
リスト(Liszt)/喜びにあふれ、苦しみに満ちS. 280
ヴォルフ/つれない娘
シューマン/悲しい音色で歌わないでOp. 98a-7;話せと言わないでくださいOp. 98a-5
シューベルト/ただ憧れを知る者だけがD. 877-4;私をこのままにさせてくださいD. 877-3
ヴォルフ/ミニョン“あの国を御存知ですか”
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※11月14日津田ホールでのアンコール(すべてゲーテの詩による)
シューベルト/ジングシュピール「ベラ荘のクラウディーネ」D239~恋はいたるところに
シューベルト/悲しみの喜びD260
シューベルト/ムーサの息子(ミューズの子)D764
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アーメリング8回目の来日は、56歳の1989年のことで、ちなみに同じ年にはハイペリオン・レーベルに「シューベルト・エディション第7巻」を録音している。この時はプログラムAを全国で披露し、津田ホールのためだけにゲーテの詩による作品による別プログラムを用意したという感じである。リサイタルAはとても意欲的な選曲で、前半をドビュッシーの代表的な歌曲集3つとラヴェルの「ギリシャ民謡集」、後半はスペインの詩のドイツ語訳によるヴォルフの「スペインの歌の本」から5曲、それに続き、スペイン歌曲5曲(いずれも彼女の十八番)でしめくくるという内容である。前半、後半ともに通好みの作品から、親しみやすい作品に移るように配列されており、アーメリングらしい気遣いと同時にレパートリーの幅の広さも印象づけられる。私は藤沢で聴いたが、ヴォルフまでは聴衆の反応もいまいちで、曲の難解さに戸惑っている感があったが、最後のバラエティに富んだ、親しみやすいスペイン歌曲のプロックでようやく距離が縮まったという様子だったのを覚えている。ただ、私個人としてはドビュッシーの名作3つや、当時彼女の録音がまだリリースされていなかったヴォルフなど、食い入るように舞台上の歌唱に耳を澄ませて、珍しい作品の実演に接することの出来た幸運を充分に満喫した思い出がある。鮮やかな青いドレスに身を包んだアーメリングの声はまだ充分に美しく、誠実で丁寧な曲へのアプローチは好感のもてるものだった。このAプロのレパートリーで録音が残されなかったのはトゥリーナ「カンターレス」だけである。
一方、ゲーテの詩による津田ホールのみのリサイタルBは、私が聴いた彼女の実演の中でもトップに挙げたいぐらい素晴らしいものだった。彼女の録音で聴けない曲が4曲もある(「五月の歌」「「ファウスト」からの場面」「喜びにあふれ、苦しみに満ち」「つれない娘」)というのも、ベテランの域に達してなお、新しいレパートリーの開拓に意欲を見せていた証だろう。レーヴェやリストの珍しい作品に接することの出来た喜びもあり、ブラームスの知られざる傑作を発見できた喜びもあったが、このコンサートの白眉は前半最後の「糸車に向かうグレートヒェン」だった。ここで歌われた歌は従来のアーメリングへの一般的なイメージを覆すに充分なものだった。まさにグレートヒェンが乗り移ったかのような壮絶な想いの表出があった。同様に後半最後のヴォルフ「あの国を御存知ですか」は、いつになくドラマティックで豊満な歌声が、同様に劇的かつ繊細な演奏を聴かせたヤンセンと共に会場を満たした。せめてライヴ録音でもされていれば、この感動を再体験できたのだが、その望みはかなわず、心の奥底にひっそりよき思い出を残すのみである。
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