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フィッシャー=ディースカウの誕生日

今日は、引退して久しいバリトン歌手、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau:1925年5月28日Zehlendorf生まれ)の81回目の誕生日である。この不世出の大歌手ほどドイツ歌曲を網羅的に高い技術と音楽性で聴かせてくれた歌手はほかにいないであろう。いろいろな歌手で1つの曲を聴き比べてみると、いかに彼が飛び抜けた存在であるのか気付かないわけにはいかない。幸運にも舞台での演奏に何度か接することが出来たが、まずその声量の豊かさに驚かされた。どんな単語もくっきりと聴こえてくるのは、大ホールでも楽に届くボリュームによるところが多いのだろう。1980年代になると声は衰えを隠せなくなったが、レパートリーの意欲的な開拓は以前にも増して積極的になり、彼の録音でないと聴けない曲の多さは際立っていた。ベートーヴェン、シューベルト、シューマン、ブラームス、ヴォルフ、R.シュトラウスの男声歌曲のほとんどは彼の万全な歌唱によって歌曲ファンを喜ばせてくれた。そんなF=ディースカウの珍しい映像を収録したDVDをご紹介したい。

The Art of Dietrich Fischer-Dieskau

(Deutsche Grammophon:B0004493-09)

DVD 1 - THE OPERA SINGER

モーツァルト/「フィガロの結婚」より(アルマヴィーヴァ伯爵:1975年録画);「ドン・ジョヴァンニ」より(ドン・ジョヴァンニ:1961年録画)

プッチーニ/「外套」より(マルセル:1974年録画)

R.シュトラウス/「影のない女」より(バラク:1963年録画);「アラベラ」より(マンドリカ:1960年録画)

ライマン/「リア王」より(リア王:1982年録画)

DVD 2 - MASTER OF THE LIED

ベートーヴェン/アデライーデOp. 46;うずらの鳴き声WoO. 129

シューベルト/月に寄せてD. 259;ブルックにてD. 853;星D. 939;春にD. 882;漁師の娘D. 957-10

シューマン/あなたは花のようOp. 25-24;ミルテとばらでOp. 24-9;月の夜Op. 39-5;献呈Op. 25-1;はじめての緑Op. 35-4;俺はひとりで座るとOp. 25-5;置くな、がさつ者よ、甕をそんなに乱暴にはOp. 25-6

ブラームス/航海Op. 96-4;セレナーデOp. 106-1;なんとあなたは、わが女王よOp. 32-9

ヴォルフ/旅路で;一年中、春;散歩;天才のふるまい;亡き母上に祝福あれ;心よ、すぐに落ち込むことはない

R.シュトラウス/見つけたOp. 56-1;明日!Op. 27-4;娘よ、なんの役に立つというのかOp. 19-1

以上、Wolfgang Sawallisch(P):1974年8月Berlin録画

マーラー/「子供の死の歌(亡き子をしのぶ歌)」(いま太陽はかくも明るく昇ろうとしている;いまや私にはよく分かる;おまえのお母さんが扉から入ってくるとき;何度も思うのだ、彼らはただ出かけただけなのだと;こんな悪天候に!)

Radio-Symphonie-Orchester Berlin;Lorin Maazel(C):1968年Berlin録画

F=ディースカウは歌曲の膨大な録音を残しているわりには映像で現在見ることが出来るものは少ない。その意味でヴォルフガング・サヴァリシュとの共演による歌曲の映像はとても貴重である。彼はサヴァリシュと1974年にこの録画をした際、プフィッツナー、マーラー、シュヴァルツ=シリングも演奏しているらしいのだが、今回のDVDからは残念ながら省かれている。ここで選ばれた作曲家は歌曲の重要な作曲家を古い方から順に並べて、歌曲の大ざっぱな流れをつかめるようによく考えられているように思う。概して明るい曲調のものが選ばれ、その中で動きのあるものと静かなものが交互に置かれて変化がつけられている。F=ディースカウはこの頃、ちょうどシューマン歌曲全集の録音に取り組んでおり、声は衰えをまだ少しも見せていない時期だが、いくぶん声が渋くなり、テノラールと評されてきたハイバリトンは重みを増している。このDVDはF=ディースカウとサヴァリシュの演奏を楽しむにはいささかの問題もなく、素晴らしく自在な表現を堪能できる。ただ、問題なのは映像の演出で、とにかく歌手とピアニストをめまぐるしく交互に写すため、落ち着かず演奏に集中できないのである。歌とピアノを対等に撮ろうとしたアイディアなのかもしれないが、あまりにもこまぎれの映像が連続して、見ているだけで疲れてしまう。演出に懲り過ぎるのもどうだろうかと考えさせられた映像であった。

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コメント

 私は、亡き子をしのぶ歌が一番印象でした。演奏はもちろんですが、古い録画で白黒にも関わらず映像が美しく、若きディースカウ(それでも43歳ですが)を堪能できました。

投稿: Pochi | 2006年5月28日 (日曜日) 19時44分

Pochi様、はじめまして。
コメントを有難うございました。
私もさきほど「亡き子」をじっくり聴いてみました。
これだけでもこのDVDを見る価値はありますね。
F=ディースカウの声、技両面における疑いなく最盛期の記録だと思います。
白黒の映像が、この悲痛な音楽に見事にはまり、オケのメンバーの顔が影になっているのが実に効果的で、歌とオケの映像の配分も鑑賞を妨げることが一切なく、素晴らしかったと思います。

投稿: フランツ | 2006年5月28日 (日曜日) 23時13分

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