伊福部昭全歌曲/藍川由美(20CM-641/642)
先日亡くなった伊福部昭の歌曲を2枚のCDにおさめたもので、ソプラノの藍川由美がいろいろな編成の楽器と歌っている。藍川さんは以前にも録音しているようで、リサイタルでも歌いこんだ馴染みの作品らしく、真摯で幅広い表現力と声の濃淡で思いの深さを伝えてくる。ソプラノだが包容力のある温かい美声である。北海道生まれで小さい頃から北方異民族と接点のあった伊福部の作品は、ギリヤーク、キーリン、オロッコ、アイヌといった民族の心情や暮らしのひとこまを自身の中で咀嚼して彼なりの民族色を表現したものといえるのではないか。オクターヴのユニゾンや特徴あるリズム、現地語による歌唱が異文化圏の匂いを作り出しているように思うが、たとえば「ギリヤーク族の古き吟誦歌」(全4曲)を聴いていると、ラヴェルの「ギリシャ民謡集」を聴いている時に近い感覚が生じてくる。そのオリジナルの民族音楽を知らないのに何故かその固有の音楽を擬似体験しているような感じである。ティンパニとの共演による「アイヌの叙事詩に依る対話体牧歌」(全3曲)は、遠吠えのような哀愁漂うこぶしっぽい歌い回しや軍歌チックな雰囲気の曲があるかと思えば、酒宴の席で聴かれそうな曲もあり、さらに雷が鳴っているかのようにティンパニを猛烈に連打させ尋常でない雰囲気を演出している曲があり、これらは伊福部歌曲の中で私が最も惹きつけられた作品郡であった。ファゴット、コントラバスとピアノ共演による「オホーツクの海」は厳しい自然と歴史を反映しているかのような音楽に吸い込まれるかのようだった。この曲の詩人、更科源蔵(1904−1985)と伊福部は交流があったそうだ。「因幡万葉の歌五首」はアルトフルートと二十五絃筝の響きで雅の世界に一気にタイムスリップさせられる。「モスラーや、モスラ」ぐらいしか覚えていない私にははじめて聴く曲だった「聖なる泉」は、短い曲だがゴジラファンにはたまらないのではないか(ザ・ピーナッツが映画の中で歌っていた曲のリメイクとのこと)。「摩周湖」はハープ版とピアノ版(ヴィオラは共通)の2種類が収められているが、私はハープ版の方が良かった。「サハリン島先住民の三つの揺籃歌」は3つの異なるタイプ(民族も異なる)の子守歌であるが、3曲目は眠る子を起こしてしまいそうな勢いだ。
| 固定リンク
「音楽」カテゴリの記事
「CD」カテゴリの記事
- エリー・アーメリング93歳の誕生日に寄せて:個人的お気に入りアーメリング歌曲録音10選+1(2026.02.08)
- フィッシャー=ディースカウ生誕100年記念のディスク2種(2025.05.02)
- エリー・アーメリング92歳を祝して:ヴォルフ・ディスコグラフィー(Happy birthday, Elly Ameling! - Hugo Wolf discography)(2025.02.08)
- 【没後100年記念】9種類のガブリエル・フォレ(Gabriel Fauré)歌曲全集(2024.11.04)
- 歌曲録音の宝の山-Hyperion Recordsのサブスク解禁(2024.03.30)

コメント