ビルギット・ニルソン追悼
スウェーデンの名ソプラノ、ビルギット・ニルソン(Birgit Nilsson:1918.5.17-2005.12.25)が昨年のクリスマスに生地のVästra Karupで亡くなったそうだ。享年87歳。ヴァーグナー歌手として一世を風靡した人で、私の中学、高校時代に歌曲のあれこれを教えてくれた恩人が大のヴァーグナー好きで、同時にニルソン好きでもあった。歌曲という短い形式に魅力を感じていた私はヴァーグナーの楽劇は巨大すぎて敬して遠ざけていたので彼女のイゾルデやブリュンヒルデとは縁がなかったのだが、幸いなことにニルソンはオペラだけでなく、シベリウス、グリーグなどの北欧の作曲家たちやR.シュトラウス、シューベルトなどの歌曲も歌っていた。
今私の手元に1枚のリサイタル盤がある。ニルソンが故郷スウェーデンのストックホルム・コンサート・ホールで歌ったライヴ録音で、1970年1月3日にR.シュトラウスの「4つの最後の歌」(Leif Segerstam指揮、スウェーデン放送響)、1974年9月8日に今は亡き名手ジェフリー・パーソンズ(Geoffrey Parsons:1929-1995)と共演して、シベリウス、R.シュトラウス、グリーグなどを歌ったものである(Bluebell:ABCD 009)。強靭でエネルギッシュ、かつしなやかで陰影にも事欠かない彼女の美声がどこまでも堪能できる好選曲である。シベリウスの深いところからこみ上げるような情熱はこの歌手にうってつけで、R.シュトラウスの開放的で息の長いフレーズをもった歌曲たちはニルソンの美質が最大に生きる作品であろう。アンコールの最後でストックホルムの観客の前で「ヴィーン、我が夢の町」を歌っているのが面白い(曲名アナウンス後の拍手からすると彼女の十八番なのだろうか?)。今夜はこのCDを聴いて、偉大なるヴァーグナー歌手のご冥福を祈りたい。
R,シュトラウス/「4つの最後の歌」(全4曲)
シベリウス/夕べにOp.17-6;はじめての口づけOp.37-1;夢だったのかOp.37-4;春は素早く飛び行くOp.13-4
R.シュトラウス/明日Op.27-4;夜Op.10-3;子守歌Op.41-1;献呈Op.10-1
Gunnar de Frumerie/波のようにOp.27-6;あなたが私の目を閉じる時Op.27-1
ラングストレム/新月のもとの少女;アマゾン
グリーグ/恋人がいればいいのだがOp.60-5;私が待つ間Op.60-3;白鳥Op.25-2;夢Op.48-6
Erkki Melartin/二十年
ジーツィンスキー/ヴィーン、我が夢の町
←amazonは現在入手できないようですが、HMVのサイトには掲載されていたので入手できるかもしれません。
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コメント
よもやニルソンの歌う北欧歌曲なんかを追悼に取り上げる人なんかいないだろうと思ったらここに居られましたね。私の方でも彼女の歌うシベリウスは大好きなので1曲取り上げました。
ご紹介されているCDは知らなかったのですが、シベリウスに関してはわりとおとなしめの選曲ですね。彼女の歌うフルメリの曲なんかちょっと聴いてみたいです。
投稿: FUJII@歌曲会館 | 2006年1月13日 (金曜日) 21時28分