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"The Artistry of Elly Ameling"

アーメリングの録音の中で彼女の全活動を概観できるCDをご紹介します。

彼女の70歳を記念して、2003年にPHILIPSから5枚組のボックスで出た"The Artistry of Elly Ameling"というCDで、彼女のDECCA、PHILIPSへの過去の膨大な録音から宗教曲、オペラ、ドイツ、フランス歌曲、そしてガーシュウィンなどのポピュラー・ソング集がおさめられています。簡単に各CDの収録曲を記すと以下のようになります。

CD1

バッハ/「マタイ受難曲」より、「ヨハネ受難曲」より、「クリスマス・オラトリオ」より
ヴィヴァルディ/「勝利のユディータ」より
ヘンデル/「むごき暴君、愛の神」
ヘンデル/「メサイア」より

CD2

ハイドン/「天地創造」より、歌劇「騎士オルランド」より、歌曲(7曲)
モーツァルト/「どうしてあなたが忘れられましょうK.505」、歌劇「フィガロの結婚」より、「あわれ、ここはいずこK.369」、「踊れ、喜べ、汝幸いなる魂よK.165」

CD3

シューベルト/歌曲(18曲)
シューマン/歌曲集「女の愛と人生Op.42」

CD4

ブラームス/歌曲集(11曲)
ヴォルフ/「メーリケ歌曲集」より(20曲)

CD5

フォレ、ドビュッシー、アーン、サティ/歌曲(6曲)
ガーシュウィン、コール・ポーター、エリントンなどのポピュラー・ソング集(アメリカ・スタンダードの他、「枯葉」「イパネマの娘」なども含む)

以上共演はJ.デームス、D.ボールドウィン、R.ヤンセン、L.ファン・ダイク、K.ミュンヒンガー、R.レッパード、N.マリナーなど。

CD1、2の宗教曲、オペラ・アリアやCD5のフランス歌曲、ポピュラー・ソングなどもアーメリングのレパートリーの多彩さを心ゆくまで堪能できる好チョイスなのですが、ここで注目したいのはCD3、4のドイツ歌曲集です。

CD3のシューベルトは彼女の39歳から51歳までの歌唱が選ばれており、十八番の「至福D.433」をはじめ、「シルヴィアにD.891」「君よ知るや南の国D.321」「野ばらD.257」「若い尼僧D.828」「糸を紡ぐグレートヒェンD.118」「アヴェ・マリアD.839」「音楽にD.547」「ミューズの息子D.764」「ますD.550」「水の上で歌うD.774」といった有名曲が網羅されていて、シューベルト初心者にも楽しめる内容になっています。私はあまり知られてはいない「愛の歌D.429」(ブラームスの同じ詩による作品は有名)でのアーメリングの優しい語りかけにうっとりとしてしまいます。シューマンの歌曲集「女の愛と人生」(一般には「~生涯」という呼び方で知られていますが、我が師に「人生」の方が詩の内容的にいいのではと指摘されて納得してしまいました)でのアーメリングは丁寧に主人公の心の移り変わりをなぞっていくタイプの歌唱で、静かな想いの中に込められるドラマがいつのまにか心に染み込んできます。

私がこのボックスで最もうれしかったのはCD4のブラームス、ヴォルフの初CD化でした。ブラームスは1977年録音のLPからA面全曲とB面の「わがまどろみはますます浅くなり」が選ばれており、全曲でないのが残念ですが、長く市場から消えていた名演奏の復活を心から歓迎したいと思います。アーメリングのような高音歌手はブラームスの重厚さと一見合わなそうに思われがちですが、その爽やかな表現がいかにブラームスの曲に新しい風を吹き込んでいるかを実感できると思います。「甲斐なきセレナード」の茶目っ気、「子守歌」の温かみに満ちた優しさはいかにもアーメリングらしさが全開ですが、「アグネス」「悲しむ娘」の悲痛な表現も低声歌手には出せない切ない情感が感じられておすすめです。ヴォルフの「メーリケ歌曲集」は1970年の若い声が魅力ですが、とかく難解なイメージの強いこの作曲家の1曲1曲が彼女の親密な語りかけでどれほど魅力を増しているかは、お聴きになるとただちに実感されるのではないでしょうか。冒頭に置かれた「妖精の歌」「ムメル湖の精霊」「水の精ビンゼフース」などのメールヒェンの世界だけで彼女の巧みな術に引き込まれてしまいます。「エオリアン・ハープに(An eine Äolsharfe)」はその美しい響きが印象的な素晴らしい作品で、ヴォルフに馴染みのない方にもぜひ聴いていただきたいと思います。

付属解説書の表紙裏に掲載されたアムステルダムでの引退コンサートで拍手に応えるアーメリング(横にいるのはヤンセン)の満足げな表情は、この歌手が最後までやり遂げた達成感を感じさせてくれます。

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