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アーメリングの初出音源

アーメリング(Elly Ameling)の新譜が久しぶりに出た。新譜といってももちろん新録音ではなく、過去のライヴの初出音源である。アーメリングはBBCシリーズではブリテンのシリーズの中の2枚がすでにリリースされていて、特にマーラーの「子供の魔法の角笛」からの2曲のみずみずしく清冽な歌声に魅了されたものだが、今回はBBC LEGENDSシリーズの1枚として、アルト歌手のジャネット・ベイカー(Janet Baker)と共にフィーチャーされて「マタイ受難曲(Matthäus Passion, BWV 244)」からのレチタティーヴォとアリアを歌っている(BBCL 4168-2)。

このCD、当初は今年の春頃にリリースが予告されていたものの、IMGとBBCとの交渉がなかなか進まず、予定が何度も延期され、今年中のリリースは半ば諦めていたところ、11月28日にとうとうリリースにこぎつけたという経緯をたどっている。待たされただけあって、店頭で入手した時の喜びもひとしおだった。

アーメリングとベイカーのほかは、指揮者がポール・スタイニッツ(Paul Steinitz)、オケがスタイニッツ・バッハ・プレイヤー、そして合唱はロンドン・バッハ・ソサイエティーとワンズワース小学校少年合唱団による演奏である(最後から2曲目の短いレチタティーヴォでわずかに聴ける男声陣はニール・ジェンキンズとジョン・バロウ)。

ここで聴ける曲は以下の通り。

5曲「汝、尊びまつる救い主のきみよ」(ベイカー)/6曲「悔いの悲しみは」(ベイカー)/8曲「血を流せ、わが心よ!」(アーメリング)/12曲「よしやわが心は涙のまにまに漂い」(アーメリング)/13曲「われは汝に心を捧げん」(アーメリング)/27曲a・b「かくてわがイエスはいまや捕われたり~稲妻よ、雷よ、雲間に隠れしか?」(アーメリング、ベイカー、合唱)/30曲「ああ、いまやわがイエスは連れさられぬ!」(ベイカー、合唱)/39曲「憐れみたまえ、わが神よ」(ベイカー)/48曲「彼は我ら総ての者の為に善き事をなせり」(アーメリング)/49曲「愛よりしてわが救い主は死にたまわんとす」(アーメリング)/51曲「神よ、憐れみたまえ!」(ベイカー)/52曲「わが頬の涙」(ベイカー)/59曲「ああ、ゴルゴタよ」(ベイカー)/60曲「見よ、イエスはわれらを」(ベイカー、合唱)/67曲「いまや主は憩いの床に安置されぬ」(アーメリング、ベイカー、ジェンキンズ、バロウ、合唱)/68曲「われら涙流しひざまずき」(合唱) ※タイトル訳は杉山好氏による。

録音は1972年3月18日、The Priory Church of St. Bartholomew the Great, West Smithfield, Londonと記されている。アーメリング初来日公演の2週間後ということになる(来日公演最終日が3月4日だった)。

アーメリングの声は好調で、豊かに響く美声をバッハの音楽のために献身的に使っている。「可憐な」という形容詞一言で片付けられることも少なくなかった当時の彼女だが、明るい人がふと見せる沈んだ表情にぐっと胸をしめつけられるのに似た、低声歌手とは違った感じの陰影を存分に表現して、悲しみを聴き手にいつのまにか染み込ませる。トラック3の"Blute nur"(第8曲)はユダに裏切られるキリストの悲しみを歌ったアリアだが、優勝したセルトーヘンボスのコンクールでも歌っている、彼女にとって縁の深い曲でもある。ここで彼女はくりかえしの箇所で装飾を加えているのが興味深い(ミュンヒンガーとの1964年のスタジオ録音ではこのような装飾はなかった)。丁寧に慈しむように紡ぎ出される歌は強く聴く者に訴えかけてくる。

この大作でしかし本当に感動的な曲が多いのはアルトのアリアかもしれない。ベイカーの温かい声と表現はアーメリングの特質とよく溶け合って相性の良さを印象つけられる。どの曲の演奏も感動的だが、特にトラック8の"Erbarme dich, mein Gott"は下降するピチカートの弦と共にベイカーの真っ直ぐな歌いぶりが心にまっすぐ突き刺さる。

スタイニッツという人はイギリスではじめてこの受難曲をドイツ語で完全上演したことで名高い人らしい。鋭利さとは正反対のぬくもりのある表現は2人の女声歌手の特質とよく合っていた。

Ameling_baker_bach_bbc_cd

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コメント

いつの間にやらこんな素敵なブログを作られていたとは。恐れ入りました。歌い手に関する該博な知識と見識は私など全く及ぶべくもないフランツさんですから、今後の発展が楽しみです。歌曲会館の方はこういう切り口では作っていませんから、コメントできそうな記事のあったときなどはまたしゃしゃり出て参りたいと思います。
無理をなさらず、少しずつでも色々な歌を、音盤を取り上げて行って頂ければ嬉しいです。

投稿: FUJII@歌曲会館 | 2005年12月22日 (木曜日) 21時07分

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