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器楽曲での歌曲ピアニスト Deutsch & Hokanson

ヘルムート・ドイチュ(Helmut Deutsch:1945年生まれ)が故ゲルハルト・ヘッツェル(Gerhart Hetzel:1940-1992)と共演したブラームスのヴィオリン・ソナタ全集のCDを先日某CD店のワゴンの中に見つけて購入した。このCD、いつか買おうと思っているうちにいつのまにか店頭から姿を消したまま久しかったのだが、中古店でもないのにこんな形で再会するとは思っていなかった。ヘッツェルは登山中の事故で1992年7月に亡くなってしまったウィーン・フィルのコンサートマスターだった人で、おそらくその前年ぐらいだったと思うがイングリト・ヘブラーとウィーン・フィルの数人とのモーツァルトやベートーヴェンの室内楽を聴きに行き、驚くほどつやのある、よく歌い朗々と響き渡る流麗な音にすっかり感動してしまったことがある。

ドイチュは言うまでもなく現代最高の共演ピアニストの一人で、ご夫人の鮫島有美子とのデュオをはじめとして、故ヘルマン・プライやオーラフ・ベーア、ペーター・シュライアー、バーバラ・ボニーなど大歌手たちから引っ張りだこの名人である。室内楽の分野でも活躍しているが、やはり歌手たちとの共演が多いのではないか。そんな彼の楽器奏者との共演をはじめて聴いたのがFMで流れていた若手ヴァイオリニストとのライヴ(フランクのソナタを弾いていたのを覚えている)で、それ以降はもっぱら歌手との多くの共演を聴くのみだったのだが、こうして今回ヘッツェルとのヴァイオリンソナタの共演を聴くことが出来た。この人の演奏は歌曲を弾く時もそうなのだが、音がまろやかである。どんなにフォルテを要求されていても決して荒くなったり、とげとげしくなることがない。音は硬質(「まろやか」という言葉と矛盾するかもしれないが、私には「まろやか」かつ「硬質」に聴こえるのである)で外よりは内側に向かっていく感じだ。ペダルのデリケートな使用による美しいレガートも彼の美点の一つだろう。よく「丁丁発止」という形容がデュオの誉め言葉として使われるが、ドイチュの演奏は楽器奏者とやりあう箇所でも丁丁発止というのとは違うアンサンブルとしての最上のバランスを生み出しているように思う。彼の素晴らしい著書「伴奏の芸術」を読めば明らかなとおり、彼は作曲家の意図に忠実な再現者である。外面的な効果狙いや自己流の変形をせず、あくまで作品を最大限に生かすことを目指しているように思う。ヘッツェルとのブラームスでも、第1番の有名な「雨の歌」の主題による第3楽章の存在感のある弱音を駆使したメランコリックな表現、第2番第1楽章でのメロディーの美しい歌わせ方、第3番第4楽章でのヘッツェルと絶妙のバランスを保ちながらの情熱的な演奏など、このピアニストのブラームスへの誠実な献身ぶりがとても気持ちのよい印象をもたせてくれた。

同じくプライとの共演で著名な、シュナーベル門下のレナード・ホカンソン(Leonard Hokanson:1931年生まれ)の録音したブラームスの晩年のピアノ小品集は、歌曲演奏で賛否両論の癖の強いアゴーギクがプラスに働いて、ブラームスの深くほの暗い迷路を重みのある音で大切に弾き進める。個性的な演奏だが、ブラームスに対する愛情のにじみでた、なんとも憎めない演奏である。

ほかにもジェラルド・ムーアによるバルトーク「子供のために」やフォレの「エレジー」(デュ・プレとの共演)、ジェフリー・パーソンズによるリストの技巧的な連弾曲なども印象深い。決して多くの注目をあびることはないが、忘れられない演奏を今後もとりあげていきたい。

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