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ホル&オルトナー/「冬の旅」(2005年10月28日 川口リリア・音楽ホール)

10月28日に川口駅前の川口リリア・音楽ホールでロベルト・ホル(Robert Holl)とみどりオルトナーによるシューベルト「冬の旅」を聴いてきました。

この会場で聴くのも初めてならば、ホル、オルトナーともに生で聴くのは初めてなので、とても楽しみにしていました。

ロベルト・ホルは今やバスバリトン界の重鎮的存在ですが、彼の歌声を初めて知ったのは、まだCDが出始めで、学生だった私がFMから歌曲の演奏をエアーチェックして楽しんでいた頃でした。

ホルはオーストリアのシューベルティアーデ音楽祭(当時はホーエネムスで行われていた)やザルツブルク音楽祭などでシューベルトの当時としては珍しい歌曲ばかり集めたコンサートを数多く開き、その多くがFMで放送された為、レコードを買う小遣いも限られていた私は、ホルの歌によって初めて聴くシューベルトの歌曲に多く接することが出来ました。

彼は今や伝説となったハンス・ホッターに師事しており、その影響が強すぎるという批判もあったわけですが、当時の私の印象としては、とにかく徹底して丁寧に粘って歌うので演奏がとても遅く、その為、時に平板な感じも正直拭えませんでした。ただ、選択されるレパートリーが当時の他の人たちとは違ってかなりマニアックだという印象があり、シューベルトのすべての歌曲を聴こうという意欲に燃えていた当時の私にとってはシューベルトの未知の曲を知ることの出来る貴重な歌手だったわけです。

今回、初めて彼の実演に接してまず感じたのが、予想に反してテンポが標準的だったことです。生で聴く彼の声は決して平板などではなく、響きが泉のようにたっぷり湧き出てくる感じで、プライを思わせる朗々としたボリューム(単に声が大きいという次元を超えて)を持っていました。これまた予想に反して、結構アクションが大きくて、全身で歌の世界を伝えようとしているようでした。彼のテンポが標準的だというのはすでに第1曲「おやすみ」から感じられ、弱声でも決して声の響きが薄くならずにS列(つまり前から19列目)の私にも充分すぎるぐらいに響いてきました。以前同郷(オランダ、ロッテルダム)のソプラノ、アーメリングが期待できるリート歌手としてベーアと共にホルの名前を挙げていたのが、実演に接してみて納得出来ました。終曲「ライアー弾き」の最後は豊かに盛り上がったまま終わり、「冬の旅」の青年に希望を託したかの締めでした。若かりし頃から歌い続けるうちに、余計なものを削ぎ落として、今や音楽の核心に迫ろうという気迫に満ちたローベルト・ホルの名唱でした。

共演者のみどりオルトナーは埼玉出身のウィーンで活躍するピアニストだそうで、私は録音でも実演でもこれまで聴いたことがなかったのですが、とても豊かな響きを持った完成されたピアニストでした。第6曲「あふれる涙」なども、単にバロック的な三連符処理をするのではなく、あえてずらすことによって、こらえてもあふれてくる涙を暗示しているように感じられました。ホルと共にピアノで歌いながら、決して独りよがりにならず引き締まったスタイルでアンサンブルの極意を披露してくれたと思います。

今回ホルの歌を生で聴いて、この歌手のたゆまぬ精進ぶりに感嘆させられたのと同時に録音にその魅力が入りきらないタイプの歌手であることを知りました。

そうはいっても普段は録音で彼の演奏を楽しむしかないわけで、聴かれたことのない方はPreiserから数多く出ている録音(「冬の旅」も含む)を聴かれてみてはいかがでしょうか。VANGUARD CLASSICSから出ているブラームス歌曲集(ヤンセンのピアノ)なども声と音楽がよく合った好演でした。

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コメント

フランツさん、こんにちは。

ロベルト・ホルを検索していたら、フランツさんのブログに来ました(*^^*)

ホルは、1996年頃レコ芸などでよく名前を聞きましたね。
「プライ型の声の魅力と、ディースカウの歌い口と、ホッター的世界を併せ持っている」という評に促されるように、レコード屋さんへ走ったことがあります。
推薦されていたシューマン歌曲集がなかったので、シフとのブラームス歌曲集(DECCA)を買いました。
「五月の夜」におけるロングトーンでの、伸びやかでスケール感のある朗々とした歌いぶりは、本当にプライさんを思わせます。
フランツさんは、何度か生でお聴きになったのですね。

来日公演はあるようですが、ホルのソロアルバムは
もう中古でしか手に入らないようで残念です。
ベーア、シュミットという人達もお元気で活躍なさっているのでしょうか。

投稿: 真子 | 2015年4月22日 (水曜日) 16時18分

真子さん、こんにちは。

ホルで検索すると私のブログがヒットするとは知りませんでした(笑)

ホルはホッターの弟子だった為、ホッターによく似た印象を受けていましたが、言われてみればプライの声とも共通する甘美さがありますね。
生では2回ぐらい聴けましたが、声量の豊かさに驚かされました。
多くの歌曲の録音がありましたが、もはや入手困難なものが多いのでしょうね。

ベーアは「魔弾の射手」の映画に出演して、DVD化もされていますが、若干高いので、まだ入手していません。来日も途絶えて久しいですね。
シュミットは歌曲全集の企画に沢山参加していましたが、確かに最近の消息がつかめません。どこか小さな町ででも歌っているのならいいのですが。

投稿: フランツ | 2015年4月23日 (木曜日) 12時56分

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