レーヴェ「エフタの娘」(Loewe: Jeptha's Tochter, Op. 5, No. 2)を聴く

Jeptha's Tochter, Op. 5, No. 2
 エフタの娘

Soll nach des Volkes und nach Gottes Willen,
O Vater, sich mein Schicksal jetzt erfüllen,
Hat dein Gelübde dieses Land befreit,
So triff den Busen, der sich jetzt dir beut!
 民衆と神の意志に従って
 おお、父上、私の運命が今実現することになっているのでしたら
 あなたの誓いがこの国を解放したのです、
 今あなたの前にあるこの胸を突いてください。

Die Zeit der Klag' und Trauer ist vollendet,
Der Schoß der Berge hat mich hergesendet.
Führt deine Hand, die ich geliebt, den Stahl,
So ist auch in dem Tode keine Qual.
 嘆きと悲しみの時が過ぎて
 山々のふところは私をこちらに送ってよこしました。
 私が愛したあなたの手が刀を扱うのでしたら
 死ぬ時も苦しくありません。

Und glaub', o Vater, was ich dir verkünde:
Ein reines Blut entströmet deinem Kinde.
Und wie dein letzter Vatersegen rein,
Wird auch in mir das letzte Denken sein.
 信じてください、おお、父上、これから私があなたに告げることを、
 純潔の血があなたの子供からあふれ出て
 あなたの最後の父親としての清らかな祝福のように
 私にとっても最後の思いとなるのです。

Es ziemt, wenn Salem's Jungfraun um mich klagen,
Dem Helden und dem Richter nicht das Zagen.
Die große Schlacht gewann ich ja für dich,
Mein Vater und mein Volk sind frei durch mich.
 サレムの処女たちが私を悼むとき
 英雄や審判者がひるまないことこそがふさわしいのです。
 あなたのために大きな戦いに私は勝ったのです、
 私によって父上やわが民衆たちは自由になったのです。

Ist längst das Blut, das du mir gabst, verrauchet,
Und dieser Ton, den du geliebt, verhauchet,
So denke nach des Ruhms, den ich erwarb,
Und o, vergiß nicht, daß ich lächelnd starb!
 あなたがとうの昔に私に与えてくれたこの血が煙と消え
 そしてあなたが愛したこの声が絶えた時
 私が得た栄誉によって思い出してください、
 そして、おお、私が微笑んで死んだことを忘れないでください!

原詩:a text in English by George Gordon Noel Byron, Lord Byron (1788-1824), "Jeptha's Daughter", appears in Hebrew Melodies, no. 7
訳詩:Franz Theremin (1780-1846), appears in Hebräische Gesänge, first published 1820
曲:Carl Loewe (1796-1869), "Jeptha's Tochter", op. 5 no. 2 (1824)

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イギリスの詩人ロード・バイロン(Lord Byron: 1788-1824)は『ヘブライの旋律(Hebrew Melodies)』という詩集を書き、1815年にそのうち最初の24編が出版されました。これはアイザック・ネイサン(Isaac Nathan: 1792–1864)作曲の音楽に歌詞を付けるために作られました。その後、ネイサンが6編を加えて、バイロンがそれらにも詩を提供しました。その内容は、トマス・アシュトンの分析によると「世俗的な恋愛の詩」「ユダヤ風の詩」「旧約聖書の主題を直接扱った詩」に分類されるようです。

ちなみに、原詩バイロンによる『ヘブライの旋律(Hebrew Melodies)』のタイトルは次の30編になります。

Magdalen
She Walks in Beauty
Oh! Snatched Away in Beauty's Bloom
Bright be the Place of Thy Soul!
Sun of the Sleepless!
I Speak not - I trace not - I breathe not
I Saw Thee Weep
Oh! Weep for Those
From Job
The Harp the Monarch Minstrel Swept
The Wild Gazelle
My Soul is Dark
Jephtha's Daughter
They say that Hope is happiness
Herod's Lament for Mariamne
We Sate Down and Wept By the Waters of Babel
In the Valley of Waters
On the Day of the Destruction of Jerusalem by Titus
Saul
Song of Saul, before his last Battle
Vision of Belshazzar
To Belshazzar
The Destruction of Semnacherib
Were My Bosom as False as Thou Deem'st It To Be
When Coldness Wraps This Suffering Clay
If That High World
“All is Vanity, Saith the Preacher”
On Jordan's Banks
Thy Days Are Done
Francisca

上記のリストを見ると、シューマンやメンデルスゾーン、ヴォルフも作曲した詩が含まれています。

フランツ・テレミンによって独訳された『ヘブライの歌(Hebräische Gesänge)』にカール・レーヴェは全部で12曲の歌曲を作り、最初の6曲は『ロード・バイロンのヘブライの歌 第1分冊 作品4(Hebräische Gesänge, Heft I, Opus 4)』として1825年に出版され、続く6曲は『ロード・バイロンのヘブライの歌 第2分冊 作品5(Hebräische Gesänge, Heft II, Opus 5)』として1826年に出版されました。
一人の詩人にフォーカスして作曲して出版するという方法はレーヴェも行っていたことになります。

レーヴェは1824年に「エフタの娘」に作曲し、1826年に作品5の第2曲として出版されました。

「エフタの娘」は、旧約聖書の「士師記」第11章に基づいています。

エフタはアルモン人との戦いに勝ったら、私が帰った時に家の戸口から出てきて私を迎える者を主に捧げますという誓いをします。その後、戦いに勝利したエフタが家に帰るとエフタの一人っ子の娘がタンバリンを叩き踊りながら彼を出迎えます。エフタは彼女を見ると服を引きちぎって誓約を悔いますが、娘はその誓約の通りにしてくださいと父親に言います。その後、彼女は二か月だけ友人と山々を巡り、純潔であることを嘆かせてほしいと懇願し、エフタは許可します。二か月後、山から戻った彼女は誓約の通りに実行されるという内容です。
エフタの誓いの内容がどう考えても自分の家族を犠牲にすることになると分かりそうに思うのですが、なぜこのような誓いをしてしまったのでしょうか。戦いに勝つ為には自分の最も大切なものを引き換えにすることが求められているということでしょうか。このエピソードを読んでちょっと不思議な気がしました。

ヘンデルが「イェフタ(Jephtha, HWV 70)」というオラトリオを作っていて、この作品の中では娘は殺されず、その代わり一生処女として過ごさなければならないという結末だそうです(「イェフタ (ヘンデル)(Wikipedia)」)。

レーヴェの音楽はコラール風のピアノ前奏で始まります。父親を悲しませないように明るく振舞っていることを示すような長調の一見けなげな響きの中、ピアノパートは下行音型が聞かれ、本心は辛く沈んでいることを暗示しているかのようです。この歌曲はリピート記号を使わない有節形式で作曲されています。節ごとに歌声部やピアノパートに繊細な変化が施されていて、変形有節形式と言えるでしょう。
シューベルトの有節歌曲が記譜されたものに演奏者が即興的に軽い装飾を加えるとすると、レーヴェはそのちょっとした変更までも律儀に記譜したというところでしょうか(この曲の場合、装飾というよりもどっしりとした安定感があるので、ちょっと違うかもしれませんが)。

最終節の最後の方に「mit hoher Begeisterung(極めて興奮して)」という指示が与えられ、レーヴェが有節形式ではあってもバラードのような展開をこの作品に付与したかったのかなと感じました。演奏者によってエフタの娘の感情表現がどう変わってくるか、本当は聞き比べできたらいいのですが、私の知る限り今のところエディト・マティス&コルト・ガルベンの録音があるのみと思われます。なかなかの良作だと思うので、今後もっと演奏されるといいなと思います。

ピアノ前奏
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第1節
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第2節
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第3節
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第4節
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第5節
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C (4/4拍子)
イ長調(A-dur)
Andante maestoso

●エディト・マティス(S), コルト・ガルベン(P)
Edith Mathis(S), Cord Garben(P)

ガルベンによるcpoレーヴェ歌曲全集の第5巻収録。今のところこの曲の唯一の録音かもしれません。芯のある折り目正しいマティスの歌唱は、エフタの娘のぶれない強さを真摯に表現していて感動的です。

●シューマン作曲「エフタの娘」Op. 95/1
[Schumann: ]3 Gesänge, Op. 95: No. 1, Die Tochter Jephthas
アンケ・フォンドゥング(MS), ウルリヒ・アイゼンローア(P)
Anke Vondung(MS), Ulrich Eisenlohr(P)

同じバイロンの原詩にケルナーが独訳したテキストにシューマンが作曲した作品です。こちらはかなり緊張感のみなぎった娘の辛い心情に焦点を当てたような音楽がつけられています。

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(参考)

The LiederNet Archive

IMSLP ("Jeptha's Tochter"はPDFのP.141)

World Project(士師記 第11章)

エフタ(Wikipedia:日本語)

ジョージ・ゴードン・バイロン(Wikipedia:日本語)

Lord Byron (Wikipedia:英語)

Franz Theremin (Wikipedia:独語)

Hebrew Melodies (Wikipedia:英語)

HEBREW MELODIES

Hebräische Gesänge (Franz Theremin) (Berlin, Duncker und Humblot, 1820) (P.22,24原詩、P.23,25テレミンの独訳)

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日本カール・レーヴェ協会コンサート・2024 (Nr. 35) (2024年9月23日 王子ホール)

第35回日本カール・レーヴェ協会コンサート・2024
レーヴェ&ドイツ歌曲のワンダーランド

2024年9月23日(月・祝)14:00-(16:20頃終演) 王子ホール

辻宥子(進行・朗読)
境澤稚子, 新居佐和子, 峯島望美(以上S)
竹村淳, 櫻井利幸, 杉野正隆(以上BR)
高須亜紀子, 菅野宏一郎, 東由輝子, 平島誠也, 松永充代, 田中はる子(以上P)
佐藤征一郎(監修)

境澤稚子(Sakaizawa Wakako)(S), 高須亜紀子(P)
レーヴェ:エフタの娘 (Loewe: Jephtha's Tochter, Op.5-2)
マーラー:私はほのかな香りをかいだ (Mahler: Ich atmet' einen linden Duft)
マーラー:夏に交代 (Mahler: Ablösung im Sommer)
マーラー:あなたが美しさゆえに愛するのなら (Mahler: Liebst du um Schönheit)

竹村淳(Takemura Atsushi)(BR), 菅野宏一郎(P)
レーヴェ:アーチバルト・ダグラス (Loewe: Archibald Douglas, op.128)

新居佐和子(Niori Sawako)(S), 東由輝子(P)
レーヴェ:時計 (Loewe: Die Uhr, Op.123-3)
ヴォルフ:アナクレオンの墓 (Wolf: Anakreons Grab)
ヴォルフ:人の好い夫婦 (Wolf: Gutmann und Gutweib)

~休憩(15分)~

櫻井利幸(Sakurai Toshiyuki)(BR), 平島誠也(P)
レーヴェ:渡し (Loewe: Die Überfahrt, Op.94-1)
レーヴェ:オルフ殿 (Loewe: Herr Oluf, Op.2-2)

峯島望美(Mineshima Nozomi)(S), 松永充代(P)
レーヴェ:ああ、お願いです、苦しみの聖母さま! (Loewe: Ach neige, du Schmerzenreiche, Op.9-1)
レーヴェ:鐘のお迎え (Loewe: Die wandelnde Glocke, Op.20-3)
ツェムリンスキー:愛らしいツバメさん (Zemlinsky: Liebe Schwalbe, Op.6-1)
ツェムリンスキー:小さな窓よ、夜にはお前は閉じている (Zemlinsky: Fensterlein, nachts bist du zu, Op.6-3)
ツェムリンスキー:青い小さな星よ (Zemlinsky: Blaues Sternlein, Op.6-5)
ツェムリンスキー:手紙を書いたのは私 (Zemlinsky: Briefchen schrieb ich, Op.6-6)

杉野正隆(Sugino Masataka)(BR), 田中はる子(P)
レーヴェ:蓮の花 (Loewe: Die Lotosblume, Op.9-1)
レーヴェ:ぼくは夢で泣いた (Loewe: Ich hab' im Traume geweinet, Op.9-6)
レーヴェ:詩人トム (Loewe: Thomas der Reimer, Op.135)

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日本カール・レーヴェ協会コンサートを聴きに、銀座の王子ホールに行ってきました。調べたところ前回王子ホールに来たのが9年前の2015年でした(サンドリーヌ・ピオー&スーザン・マノフ)。ここ数年はごく限られたコンサートぐらいしか出かけることがないのですが、これほど王子ホールが久しぶりとは思ってもいませんでした。9年ぶりの王子ホールは特に変わったところもなく、これまで同様の素敵なホールでした。

そういえばちょっと開演まで時間があったので、久しぶりに山野楽器でCDでも見ようとお店の前まで行ったところ、CDの販売を終了した旨の案内があり、驚きました。こんな大きなお店でもCDはもう売れないのでしょうか。CDショップも最近見かけなくなり、現物を買うにはネットかご本人のコンサート会場に行くしかなくなる日も近いのかもしれません(渋谷のタワーレコードには頑張ってほしいです)。

閑話休題。なぜ今回レーヴェ協会のコンサートに出かけたかというと、最近レーヴェの歌曲を少しずつ聞くようになり、cpoのレーヴェ歌曲全集を調べたりしていたところ、たまたまネットでこのコンサートの広告が目に入り、祝日ということもあり、曲目も興味深かったので出かけることにしたのです。

ピアニストの平島さんと東さんは以前に聞いたことがあり優れたピアニストであることは存じ上げていて、さらに今回進行役と朗読を務められたメゾソプラノの辻宥子さんは随分昔ですがこちらのリンク先のコンサートを聞いています。辻さんを含む4人の日本人歌手たちとドルトン・ボールドウィンによるこのロッシーニのコンサートは楽しかったのを覚えています。

日本カール・レーヴェ協会のコンサートは、私がこのブログを始めるよりも前に一度聞いた記憶があります(記憶が正しければ)。おそらく家のどこかにパンフレットがあると思います。
今回のコンサート、6人の歌手(ソプラノ3人とバリトン3人)と、それぞれ異なるピアニスト6人が、レーヴェのみ、もしくはレーヴェと他の作曲家の作品を合わせて披露していました。

最初の境澤稚子さん&高須亜紀子さんはレーヴェ1曲+マーラー3曲で、レーヴェの「エフタの娘」は聖書の話に基づくそうです。辻さんの解説によると、エフタが戦争に勝たせてくださいとエホヴァに祈り、もし勝利したら帰宅して最初に出迎えた者を捧げますと誓います。エフタが戦争に勝ち、帰宅したところ彼の愛娘が最初に出迎えて、エホヴァに捧げられることになります。バイロンの詩の独訳がテキストに用いられていますが、詩を読むとこの娘が気丈にも死ぬことを覚悟していることが分かります。父エフタが人身御供として娘を殺したという説と、殺されずにエホヴァに仕えて暮らしたという説があるようです。一方マーラーはしっとりとした2曲の間にコミカルな「夏に交代」がはさみこまれたプログラミングでした。

次の竹村淳さん&菅野宏一郎さんはレーヴェの10分以上かかる「アーチバルト・ダグラス」1曲を披露しました。歌曲としては10分はかなり長い方ですが、辻さんと竹村さんのトークでも触れられていましたが、実際にはもっと長い作品が沢山あり、cpoのレーヴェ全集を見ると、聞く前から身構えてしまいそうな長さの作品が多いことが分かります。この「アーチバルト・ダグラス」はレーヴェの作品の中では比較的よく演奏されていて、ヒュッシュからF=ディースカウ、プライ、ホッター、クルト・モル、クヴァストホフ、さらに現役世代のトレーケルやクリンメルまで録音しています。
アーチバルド・ダグラス伯爵はジェームズ王の子供の頃から支えてきましたが、アーチバルドの兄弟が謀反を起こした結果、ダグラス家は追放となります。7年間放浪したアーチバルドは再度ジェームズ王の前にあらわれ許しを請います。最初のうちはアーチバルドを見なかったこと、聞かなかったことにして、そのまま行こうとしますが、アーチバルドがもう一度だけ馬の世話をして故郷の空気を吸わせてほしい、それがかなわないのならばこの場で死なせてほしいと訴えます。それを聞いたジェームズ王は、その忠義心に胸を打たれ、彼を許して一緒に故郷へ向かうという内容です。レーヴェの曲がバラードの展開に沿って細やかに描かれていき、その長大さを感じさせない見事な作品だと思います。

前半最後の新居佐和子さん&東由輝子さんはレーヴェの有名な「時計」とヴォルフのゲーテ歌曲2曲を演奏しました。辻さんが最初の解説でこの「時計」というのは何のことをたとえているのでしょうと客席に問いかけて演奏が始まりました。最後の瞬間にひとりでに止まるであろう時計を神様にお返ししようとする主人公の心臓の鼓動を時計になぞらえているのでしょう。
ヴォルフの「アナクレオンの墓」は享楽主義の古代ギリシャの詩人を称えた名作。そしてなかなか実演で聞けない「人の好い夫婦」を聞けたのが楽しかったです(「人の好い夫婦」はレーヴェも作曲していますが、ここではヴォルフの作品が披露されました)。ヴォルフは先人が成功していると思った詩には作曲しなかったそうなので、レーヴェ作曲の「人の好い夫婦」には満足していなかったのかもしれません。

ここまで前半だけで1時間でしたがあっという間でした。

休憩15分をはさみ、後半は櫻井利幸さん&平島誠也さんのレーヴェ2曲で始まりました。最初の「渡し」は辻さんが「私」ではないですよと冗談をおっしゃり、場を和ませていました。この曲、歌手活動最晩年のディースカウも録音していて、川を渡る水の音を模すピアノパートに乗って美しい歌が静かな感銘を与えてくれます。何年も前に主人公が2人の友人と一緒にこの川を渡ったが、その2人は亡くなってしまった。再度同じ川を渡った後、今も絆のつながっている友人たちの分も含めた3人分の船賃を船頭に払うという内容です。一方で有名な「オルフ殿」はデンマークの詩のヘルダーによる独訳に作曲され、おどろおどろしい内容は、辻さんたちの解説でも触れられていましたが「魔王」によく似ています。演奏前に辻さんにふられて平島さんが前奏や夜が明けて朝になる場面の間奏を演奏してくれました。こういう実例の演奏は曲をはじめて聞く人にとっても大きな助けになるのではないかと思います。

続いて、峯島望美さん&松永充代さんはレーヴェ2曲とツェムリンスキー4曲を演奏しました。峯島さんはこのコンサート初登場だそうです。レーヴェの「ああ、お願いです、苦しみの聖母さま!」はシューベルトも作曲している「ファウスト」内のテキストによる作品で、凝縮した悲しみの表現が素晴らしい作品です。一方の「鐘のお迎え」は「追いかける鐘」と訳されることもある有名なリートで、教会にいきたがらない少年を鐘が追いかけるというユーモラスな作品です。続いてのツェムリンスキーは6曲からなる「トスカーナ地方の民謡によるワルツの歌Op. 6」からの4曲が演奏されました。初期のツェムリンスキーのまだ初々しさも感じられる耳に馴染みやすい作品群です。ピアノパートがすでに精緻でかなりの演奏効果をあげていました。

最後は杉野正隆さん&田中はる子さんによるレーヴェ3曲。最初の2曲「蓮の花」「ぼくは夢で泣いた」はいずれもシューマンの歌曲が有名ですが、レーヴェの作品も素晴らしいです。前者は舟歌のようなリズムにのって歌われる歌声部の繊細な響きが美しく、後者は上行する旋律が印象的で有節形式なので繰り返し聞くうちに耳に残ります。今回のコンサートの締めは有名な「詩人トム」です。詩人トーマスが寝そべっていると妖精の女王に出会い、口づけをすると7年私に仕えなければならないと言われたトムは喜んで口づけをし、なんとも幸せを感じながら(Wie glücklich)女王とともに馬を進めたという内容です。馬のたてがみに付けられている鈴の音がピアノパートで美しく再現されます。歌声部は詩の展開に沿って進みますが、基本的にはのどかで心地よい響きに満ちています。素性の知らない女性と会っても驚きもせず、帽子をとって挨拶するトムの人物像はおそらくオリジナルのスコットランドの詩に由来するのではないかと想像します。

演奏はみな素敵でした。ソプラノ3人はそれぞれ個性の違う方たちで、同じソプラノでも異なる声の響きで楽しませていただきました。特に峯島さんは声量が豊かで「ああ、お願いです、苦しみの聖母さま!」の悲しみの表現など素晴らしかったです。他のお二人もそれぞれの個性を生かした表現で楽しませていただきました。

バリトン3人の中ではおそらく竹村さんが若い方のようで、櫻井さんと杉野さんはベテランの貫禄が滲み出ていました。3人ともかなり声のボリュームが凄くて、王子ホールより大きなホールでも余裕で後部座席まで届きそうな豊かな声をされていました。竹村さんはとても丁寧で真摯な表現で今後楽しみな歌手だと思いました。そして櫻井さんと杉野さんは味わい深い声の響きと表現力に酔いしれました。

ピアニストは久しぶりに聴いたベテランの平島さんはもちろん素晴らしくレーヴェの作品の展開を描いていましたし、東さんの余裕のある美しい響きも良かったです。今回他の4人の方も含め、みなピアノの音がとても美しく、どれほど一つの音を出すのに入念な準備をされているのだろうと思うほど、磨き抜かれた響きでした。6人の素晴らしいピアニストを聞くことが出来て大満足でした。

忘れてならないのが進行・朗読を務められた辻宥子さんです。舞台左の椅子に座られ、最初から最後まで聴衆と演奏者どちらにも場を和ます気配りをされながら会の進行を務めておられました。まず語りが素晴らしく、詩の内容や背景などの説明から朗読まで、どこを取っても味わい深さが感じられるものでした。ちなみに詩の全訳ではなく抄訳の為、「朗読」という言葉を使うことをためらわれていましたが、眼前に情景が浮かぶような見事な語りを披露されていて、紛れもなく朗読という芸術を味わった気持ちでした。今一度辻さんの歌も聞いてみたい気がします。

最後に、このプロジェクトを立ち上げられた監修の佐藤征一郎さんにも大きな拍手を送りたいと思います。
配布された充実した内容のプログラム冊子(堀越隆一氏の解説も貴重な資料です)に「エピローグとしてのプロローグ」という文章を寄稿されていて、大変なご苦労があった中、現在は音源の整理や執筆活動をされているということが分かりひとまず安心しました。当日会場にいらっしゃったのかどうかは分かりませんでしたが、今後も執筆活動など楽しみにしたいと思います。ちなみに高橋アキさんやボールドウィンと組んだ佐藤さんのレーヴェのCDも素晴らしいので、興味のある方はぜひ聞いてみてください。

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(参考)

日本カール・レーヴェ協会(ホームページ)

日本カール・レーヴェ協会(facebook)

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エリーの要点「インフルエンサー」(Elly's Essentials; “Influencer”)

●Elly's Essentials; “Influencer”

Channel名:Elly Ameling (オリジナルのサイトはこちらのリンク先です。音声が出ます。)

(エリー・アーメリングの言葉の大意)

ある若い友人が私を喜ばせようとして「あなたは今やインフルエンサーだね」と言ったのですが、私はそうではありません。私がこの短い動画でやろうとしているのは音楽愛好家に考えてもらえるような音楽的、声楽的アイデアを提示することです。そうすることでおそらく彼らの想像力が豊かになるでしょう。

(0:58- Wolf: Rat einer Alten)
Elly Ameling, Dalton Baldwin

Rat einer Alten
 老女の忠告

Bin jung gewesen,
Kann auch mit reden,
Und alt geworden,
Drum gilt mein Wort.
 私だって若い時があったのだから
 若い子の話の輪に入れるさ、
 こうして年をとったから
 私の言うことは聞いといたほうがいいよ。

Schön reife Beeren
Am Bäumchen hangen:
Nachbar, da hilft kein
Zaun um den Garten;
Lustige Vögel
Wissen den Weg.
 きれいな熟れたいちごが
 低木に生(な)っている。
 お隣さん、庭に生垣があっても
 意味ないよ。
 元気な鳥たちは
 行き方を心得ているからね。

Aber, mein Dirnchen,
Du laß dir rathen:
Halte dein Schätzchen
Wohl in der Liebe,
Wohl in Respekt!
 でも、お嬢ちゃん、
 アドバイスをお聞き、
 あんたのいとしい人をつかまえておきなさい、
 愛情と
 敬意をもってね!

Mit den zwei Fädlein
In Eins gedrehet,
Ziehst du am kleinen
Finger ihn nach.
 2本の糸を
 よじって1本にしたら、
 あんたのちっちゃな指に
 彼氏をしっかり結ぶのよ。

Aufrichtig Herze,
Doch schweigen können,
Früh mit der Sonne
Muthig zur Arbeit,
Gesunde Glieder,
Saubere Linnen,
Das machet Mädchen
Und Weibchen werth.
 正直な心をもち、
 でも口をつぐむことが出来ること、
 太陽が顔を出す早朝から
 勇気をもって仕事に勤しむこと、
 健やかな身体と
 清潔な亜麻布を身に着けること、
 それが乙女と
 女性の価値となるのよ。

Bin jung gewesen,
Kann auch mit reden,
Und alt geworden,
Drum gilt mein Wort.
 私だって若い時があったのだから
 若い子の話の輪に入れるさ、
 こうして年をとったから
 私の言うことは聞いといたほうがいいよ。

詩:エドゥアルト・メーリケ(Eduard Mörike: 1804-1875), "Rath einer Alten"
曲:フーゴー・ヴォルフ(Hugo Wolf: 1860-1903), "Rat einer Alten", from Mörike-Lieder, no. 41

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(参考)

Elly's Essentials; “Influencer” (YouTube)

The LiederNet Archive

IMSLP (Volume 1, P.147)

Gedichte von Eduard Mörike (Stuttgart, Göschen'sche Verlagshandlung, 1867) (P.14: Rath einer Alten)

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エリー・アーメリング(Elly Ameling)の「Musings on Music」シリーズ:フォレ&ドビュッシー「それはもの憂い恍惚(C'est l'extase langoureuse)」

●Musings on Music by Elly Ameling - Fauré - Debussy, C'est l'extase langoureuse

Channel名:Elly Ameling (オリジナルのサイトはこちらのリンク先です)

フォレとドビュッシーの「それはもの憂い恍惚(C'est l'extase langoureuse)」(ヴェルレーヌ詩)についてアーメリングが解説しています。
実は一度この動画を見て記事を作り、ほぼ完成の状態までいったのですが、突然PCがフリーズしてしまい、原稿をクラウドに保管していなかった為、記事が飛んでしまいました。以前にも同様のことがあり、最近はこまめにクラウドやブログの下書きに保存していたのですが、今回それをさぼってしまいました。もう一度同じ作業をする気力が残っていないので、今回は動画の共有だけにとどめることにします。アーメリングが譜例で説明しながらフォレとドビュッシーの違いを解き明かしていますので、ぜひご覧ください。それにしてもアーメリング様はお元気でチャーミングです。

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ジークフリート・ローレンツ&ノーマン・シェトラー/シューベルト歌曲集(8CDs)

2024年に相次いで旅立った二人の名演奏家、ジークフリート・ローレンツ(Siegfried Lorenz)&ノーマン・シェトラー(Norman Shetler)は、ドレスデンのLukaskircheで13年間にわたってシューベルトの歌曲集、全150曲を録音してきました。その後、BERLIN Classicsから8枚組のCDボックスにまとめられてリリースされています。
内訳は下記の通りです。

CD 1: Schubert: Die schöne Müllerin, D 795 (rec. March 1987, Lukaskirche, Dresden)
『美しい水車屋の娘』

CD 2: Schubert: Winterreise, D 911 (rec. Sep. 1986, Lukaskirche, Dresden)
『冬の旅』

CD 3: Schubert: Schwanengesang, D 957 / D 965A (rec. Nov. 1985, Lukaskirche, Dresden)
『白鳥の歌』

CD 4: Schubert: Lieder nach Goethe (rec. Sep. 1974, Lukaskirche, Dresden)
『ゲーテの詩による歌曲集』

CD 5: Schubert: Lieder nach Schiller (rec. May 1976, Lukaskirche, Dresden)
『シラーの詩による歌曲集』

CD 6: Schubert: Lieder nach Mayrhofer (rec. July 1980, Lukaskirche, Dresden)
『マイアホーファーの詩による歌曲集』

CD 7: Schubert: Lieder nach verschiedenen Dichtern (rec. March 1983(1-22,29-31), March 1977(23-28), Lukaskirche, Dresden)
『様々な詩人の詩による歌曲集』

CD 8: Schubert: Lieder nach Dichtern des Freundeskreises; Autobiographische Lieder (rec. March 1977(1-8), Oct. 1976(9-22), Lukaskirche, Dresden)
『友人サークルの詩人の詩による歌曲集/自伝的な歌曲集』

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録音年代を見ると、ばらばらですので、時系列に並べ替えてみます。

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●1974年9月23-26日録音(※23-26日のデータは、国内盤LPの表記による)
CD 4: Schubert: Lieder nach Goethe (rec. Sep. 1974, Lukaskirche, Dresden)
Erlkönig, D328
Der Schatzgräber, D 256
Wandrers Nachtlied I, D 224 "Der du von dem Himmel bist"
Grenzen der Menschheit, D 716
An Schwager Kronos, D 369
Prometheus, D 674
Der Sänger, D 149
Der König in Thule, D 367
An den Mond I, D 259
Versunken, D 715
Liebhaber in allen Gestalten, D 558
Jägers Abendlied, D 368
An die Entfernte, D 765
Willkommen und Abschied, D 767
Geheimes, D 719
Heidenröslein, D 257
Der Musensohn, D 764

●1976年5月17-20日録音(※17-20日のデータは、国内盤LPの表記による)
CD 5: Schubert: Lieder nach Schiller (rec. May 1976, Lukaskirche, Dresden)
Der Pilgrim, D 794
Der Taucher, D 111
Der Jüngling am Bache, D 638
Sehnsucht, D 636 "Ach, aus dieses Tales Gründen"
Hoffnung, D 637 "Es reden und träumen die Menschen"
Die Bürgschaft, D 246

●1976年10月録音
CD 8: Schubert: Lieder nach Dichtern des Freundeskreises; Autobiographische Lieder (rec. Oct. 1976(9-22), Lukaskirche, Dresden)
An die Musik, D 547b
Der zürnende Barde, D 785
Des Sängers Habe, D 832
Schatzgräbers Begehr, D 761b
Der Jüngling und der Tod, D 545b
Abschied von einem Freunde, D 578
Selige Welt, D 743
Schiffers Scheidelied, D 910
Der Strom, D 565
Fischerweise, D 881
Jägers Liebeslied, D 909
Widerschein, D 949
Totengräberweise, D 869
Schwanengesang, D 744 "Wie klag' ich's aus, das Sterbegefühl"

●1977年3月録音
CD 7: Schubert: Lieder nach verschiedenen Dichtern (rec. March 1977(23-28), Lukaskirche, Dresden)
An die Sonne, D 272
Alinde, D 904
An die Laute, D 905
Hippolits Lied, D 890
Der Leidende, D 432
Das Heimweh, D 356 "Oft in einsam stillen Stunden"

●1977年3月録音
CD 8: Schubert: Lieder nach Dichtern des Freundeskreises; Autobiographische Lieder (rec. March 1977(1-8), Lukaskirche, Dresden)
Sängers Morgenlied, D 165
Liebeständelei, D 206
Das war ich, D 174
Sehnsucht der Liebe, D 180
Liebesrausch, D 179
Frühlingsglaube, D 686
Glaube, Hoffnung und Liebe, D 955
Grablied für die Mutter, D 616

●1980年7月録音
CD 6: Schubert: Lieder nach Mayrhofer (rec. July 1980, Lukaskirche, Dresden)
Sehnsucht, D 516 "Der Lerche wolkennahe Lieder"
Atys, D 585
An die Freunde, D 645
Die Sternennächte, D 670
Beim Winde, D 669
Nachtviolen, D 752
Heliopolis I, D 753 "Im kalten, rauhen Norden"
Der Schiffer, D 536
Wie Ulfru fischt, D 525
Auf der Donau, D 553
Gondelfahrer, D 808
Nachtstück, D 672
Der Sieg, D 805
Zum Punsche, D 492
Heliopolis II (Im Hochgebirge), D 754 "Fels auf Felsen hingewälzet"
Geheimnis, D 491
Lied eines Schiffers an die Dioskuren, D 360

●1983年3月録音
CD 7: Schubert: Lieder nach verschiedenen Dichtern (rec. March 1983(1-22,29-31), Lukaskirche, Dresden)
Die Forelle, D 550
Fischerlied, D 351 "Das Fischergewerbe gibt rüstigen Mut!"
Pflügerlied, D 392
Der Jüngling an der Quelle, D 300
Herbstlied, D 502
Das Grab, D 569
An den Tod, D 518
Geisternähe, D 100
Der Geistertanz, D 116
Klage, D 415
Der Tod und das Mädchen, D 531
Auf dem Wasser zu singen, D 774
Stimme der Liebe, D 412
Täglich zu singen, D 533
Lied vom Reifen, D 532
Adelaide, D 95
Lebenslied, D 508
Zufriedenheit, D 362
Skolie, D 507
Naturgenuß, D 188
Wiegenlied, D 498 "Schlafe, schlafe, holder, süßer Knabe"
Abendlied, D 499 "Der Mond ist aufgegangen"
Am Tage Aller Seelen, D 343
Die Perle, D 466
Der Wanderer, D 489 (formerly D 493) "Ich komme vom Gebirge her"

●1985年11月録音
CD 3: Schubert: Schwanengesang, D957/D965A (rec. Nov. 1985, Lukaskirche, Dresden)

●1986年9月録音
CD 2: Schubert: Winterreise, D911 (rec. Sep. 1986, Lukaskirche, Dresden)

●1987年3月録音
CD 1: Schubert: Die schöne Müllerin, D 795 (rec. March 1987, Lukaskirche, Dresden)

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1974年にゲーテ歌曲集を録音したのを皮切りに、翌年シラー歌曲集、続いて70年代から80年代前半にかけて個々の歌曲を録音していきます(特に1980年にはマイアホーファー歌曲集を録音しています)。そして1985年から87年にかけて毎年1枚ずつ3大歌曲集を録音していきます。これらの3大歌曲集はCapriccioレーベルからリリースされたものと同一音源と思われます。

参考までに、CDの内訳をエクセルにまとめましたので、興味のある方はこちらからダウンロードしてご覧いただければと思います。

ダウンロード(Excel)

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ブラームス「嘆き」(Brahms: Klage, Op. 105, No. 3)を聴く

Klage, Op. 105, No. 3
 嘆き

Feins Liebchen, trau du nicht,
Daß er dein Herz nicht bricht!
Schön Worte will er geben,
Es kostet dein jung Leben,
Glaub's sicherlich!
 素敵な恋するお嬢さん、信じては駄目よ、
 あの男があなたの心をズタズタにするわけがないなんて!
 彼は美辞麗句を並べ立てるでしょうが、
 それは若いあなたの命取りになるわ
 このことを絶対に信じていてね!

Ich werde nimmer froh,
Denn mir ging es also:
Die Blätter vom Baum gefallen
Mit den schönen Worten allen,
Ist Winterzeit!
 私は二度と楽しくなることはないでしょう、
 なぜなら私の身に起こったのは、
 木から葉っぱが
 あの美辞麗句すべてと共に落ちてしまったの、
 それは冬のこと!

Es ist jetzt Winterzeit,
Die Vögelein sind weit,
Die mir im Lenz gesungen,
Mein Herz ist mir gesprungen
Vor Liebesleid.
 今は冬、
 小鳥たちは遠くに行ってしまった、
 春には私に歌ってくれたの。
 私の心は張り裂けてしまった
 愛に苦しむあまり。

詩:Volkslieder (Folksongs) , collected by Kretzschmer and Zuccalmaglio, Berlin, first published 1838-40
曲:Johannes Brahms (1833-1897), "Klage", op. 105 (Fünf Lieder) no. 3 (1887/8), published 1888 [ voice and piano ], Berlin, Simrock

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アンドレアス・クレッチュマー(Andreas Kretzschmer: 1775-1839)とアントン・ヴィルヘルム・フォン・ツッカルマーリョ(Anton Wilhelm von Zuccalmaglio: 1803-1869)収集の『オリジナルの歌付きドイツ民謡集(Deutsche Volkslieder mit ihren Original-Weisen)』という全2巻の民謡集が1838年、1840年にベルリンから出版されているのですが、その第2巻(ツッカルッマーリョ収集)に収められているのが、この「嘆き」という民謡です。「ニーダーライン地方の民謡から(Vom Niederrhein)」と記載されています。
ツッカルッマーリョ収集の「嘆き」の楽譜が下記のものです。

Klage_1 
Klage_2 

ブラームスはこの民謡のテキストのみを用いて、おそらく1888年にオリジナルの民謡とは全く異なる曲を付けました(ただ、有節形式で作曲されているのは、オリジナルの民謡を意識しているのでしょう)。同年10月に『ピアノ伴奏付きの低声独唱のための5つの歌(5 Lieder für eine tiefere Stimme mit Begleitung des Pianoforte)』作品105の3曲目として出版されました。

ブラームスの曲は、前奏なしでいきなり歌が始まります。
1行目はヘ長調のトニックで終わりますが、2行目の最後(bricht:brechen(壊す、破る)の3人称単数)はVIの和音の疑終止で不穏な空気を醸し出し、歌声部の最後はニ短調で締めくくります。ただ、ピアノ後奏の最後はヘ長調の主和音に戻ります。

男に裏切られた女性が、その男を好きになった友人(もしくは姉妹)に警告しているのでしょう。うまい言葉に騙された女性の嘆きが短い音楽の中に凝縮されて、聞き手の心を揺さぶります。3節の一見簡素な有節歌曲で、これほどまでに深いドラマを描いてしまうブラームスの手法にただただ脱帽するのみです。

ピアノ後奏は、歌の最後の4つの音の進行を引き継ぎ、最後は音価(音の長さ)を拡張して終結します。ブラームスが民謡調の作品の中に込める密度の濃さを強く感じる作品の一つです。

Klage-ending 

・ベルリンのN. Simrock社から1888年に出版された初版楽譜(第3節は下の楽譜の次のページにあるのですが、音楽は同一です)

Brahms-klage 

3/4拍子
ヘ長調(F-dur)-ニ短調(d-moll)
Einfach und ausdrucksvoll(単純に、表情豊かに)

●ジェスィー・ノーマン(S), ダニエル・バレンボイム(P)
Jessye Norman(S), Daniel Barenboim(P)

ノーマンの繊細な語り口に魅了されます。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR), ヴォルフガング・サヴァリシュ(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR), Wolfgang Sawallisch(P)

F=ディースカウは民謡の言葉からも深い心理描写を描き出していて、凄みを感じました。

●クリストフ・プレガルディアン(T), ウルリヒ・アイゼンローア(P)
Christoph Prégardien(T), Ulrich Eisenlohr(P)

プレガルディアンが真摯に歌っていて、心に沁みました。シューベルトの有節歌曲では装飾を加えていたプレガルディアンですが、ブラームスのこの曲では装飾を加えていませんでした。

●レベッカ・シュテーア(MS), トビアス・ハルトリープ(P)
Rebekka Stöhr(MS), Tobias Hartlieb(P)

ゆっくり目のテンポでしっとりとした雰囲気を醸し出すシュテーアの表現力が素晴らしかったです。ハルトリープも歌の雰囲気としっかり合致した演奏でした。

●ソフィー・レンネルト(MS), グレアム・ジョンソン(P)
Sophie Rennert(MS), Graham Johnson(P)

Hyperionのブラームス歌曲全集の10巻。オーストリアのメゾ、レンネルトが素直に歌っています。

●エンミ・ライスナー(A), ミヒャエル・ラウハイゼン(P)
Emmi Leisner(A), Michael Raucheisen(P)

ラウハイゼンによるドイツ歌曲プロジェクトの一環として録音されたものです。ライスナーの表情豊かで深々とした歌は古さを全く感じさせません。

●ピアノパートのみ(Mariya Broytman(P))
Johannes Brahms, Klage, Op.105, No. 3, Piano Accompaniment, F major, no voice

Channel名:accompaniment piano(オリジナルのサイトはこちらのリンク先。音が出ますので要注意)
ピアノパートだけで聴いてもブラームスの素晴らしさが伝わってきます!ゆっくり目の演奏ですので、一緒に歌ってみるのもいいですね。

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The LiederNet Archive

IMSLP (楽譜)

Deutsche Volkslieder mit ihren Original-Weisen / Zweiter Theil. (A. Wilh. v. Zuccalmaglio / Berlin, 1840 / Vereins-Buchhandlung) (リンク先はGoogleブックスに掲載されているこの書籍の表紙に飛ぶので、画面下の「この書籍内を検索」欄に例えば「Feins Liebchen, trau du nicht」と入力してリターンを押して下さい。すると2つ検索結果の画面が出るので、460ページと書いてある方をクリックすると表示されます)

Andreas Kretzschmer (Wikipedia (独語))

Anton Wilhelm von Zuccalmaglio (Wikipedia (独語))

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エリーの要点「美」(Elly's Essentials; “Beauty”)

●Elly's Essentials; “Beauty”

Channel名:Elly Ameling (オリジナルのサイトはこちらのリンク先です。音声が出ます。)

(エリー・アーメリングの言葉の大意)

「Beauty(美)」という言葉は今では多くのものに使われすぎてありふれた言葉になってしまいました。
「美」に感動していますか。
ハーモニーの使者として「美」を経験していますか。
人生に必要なものとしてハーモニーを経験していますか。
時間があればハーモニーや美に洗浄してもらうのですが、携帯電話やAIなど責務が肩にのしかかってきます。
6時になったら電化製品から離れて、シューベルトを聞きませんか?

6:29- シューベルト「夕映えの中で(Im Abendrot)」の演奏(エリー・アーメリング&ドルトン・ボールドウィン)

Im Abendrot, D 799
 夕映えの中で

O wie schön ist deine Welt
Vater, wenn sie golden strahlet!
Wenn dein Glanz herniederfällt,
Und den Staub mit Schimmer malet,
Wenn das Rot, das in der Wolke blinkt,
In mein stilles Fenster sinkt!
 おお、なんと美しいのだ、御身の世界は、
 父よ、世界が金の光を放つ時!
 また、御身の輝きが降り注ぎ、
 ほこりを微光で色づける時、
 雲の中でちらついている紅が
 私の静かな窓辺に沈み込んでくる時!

Könnt ich klagen, könnt ich zagen?
Irre sein an dir und mir?
Nein, ich will im Busen tragen
Deinen Himmel schon allhier.
Und dies Herz, eh es zusammenbricht,
Trinkt noch Glut und schürft noch Licht.
 私は嘆き、ためらっているのだろうか?
 御身も自分も信じられないのだろうか?
 いや、私は胸にしかと抱こう、
 もうここにある御身の天空を。
 そして、この心は、もろく崩れ落ちる前に
 さらに赤熱を飲み込み、光をすすり入れるのだ

詩:Karl Gottlieb Lappe (1773-1843), "Im Abendroth", first published 1818
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828), "Im Abendrot", D 799 (1824?5)

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(参考)

Elly's Essentials; Elly's Essentials; “Beauty” (YouTube)

The LiederNet Archive (O wie schön ist deine Welt)

詩と音楽 梅丘歌曲会館(夕映えの中で)(※私がかつて投稿した対訳)

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ジークフリート・ローレンツ(Siegfried Lorenz)逝去

ドイツ出身の名バリトン歌手、ジークフリート・ローレンツ(Siegfried Lorenz: 1945.8.30 – 2024.8.24)が誕生日を6日後にひかえて亡くなったそうです。78歳と知って、もうそんな年齢だったのかと驚かされます。演奏家たちが現役ばりばりの頃のまま時がストップしてしまったかのようです。
F=ディースカウらの次の世代の注目株として名前が挙がっていたのが昨日のことのように感じられます。
ローレンツは来日したことがあるらしいのですが、それがいつなのか分からず(※(2024.9.7追記)調べて判明した来日公演の内容の一部を記事の下部に追記しました)、私自身は残念ながら実演を聞いたことがありませんでした。
ただ、シューベルトの歌曲集を沢山録音しているのが強く印象に残っていて、後年LP時代のものも含めてCD8枚組にまとめられています。
F=ディースカウの選曲をかなり意識したようなヴォルフ『メーリケ歌曲集』の録音を今あらためて聞くと、ディースカウと異なる資質をもったローレンツの楷書風の丁寧な歌声がとても爽快で、ヴォルフにとっつきにくさを感じている方にも聞きやすいのではないかと感じました。
ローレンツと長年コンビを組んでいたピアニストのノーマン・シェトラーも6月に亡くなって、その2ヶ月後にローレンツまで旅立つとは思ってもいませんでした。

この記事の後半にDiscogsに掲載されていたローレンツの歌曲の録音をまとめましたが、Discogsに載っていなかったブラームスの歌曲集が手元にあり、1989年、Lukaskircheの録音で『4つの厳粛な歌』+16曲の歌曲が収録されています。これもローレンツの柔らかい美声で丁寧に歌われたもので、シェトラーのピアノ共々素晴らしいので、中古ショップなどで見かけられたら入手してみるのもいいかもしれません。

また、これはApple musicのサブスクに含まれていた配信アルバムなのですが、"11th International Music Competition, Budapest"というブダペストのコンクールの入賞者によるHungarotonレーベルのアルバムの中で、ヘルベルト・カリガ(Herbert Kaliga)のピアノでブラームス、ベートーヴェン各1曲、R.シュトラウス2曲を歌っています。

●Zueignung, Op. 10 No. 1
11th International Music Competiton, Budapest
Siegfried Lorenz(BR), Herbert Kaliga(P)

ローレンツのインタビューとコンサートの3つの番組をつなげた3時間以上のボリュームの映像がアップされています。最初の「ジークフリート・ローレンツ-肖像と歌曲(Siegfried Lorenz - Portrait und Lieder)」は、インタビューの合間に歌曲などの演奏を挿入していますが、歌曲に関しては断片的ではなく1曲フルで見ることが出来ます。特にヴォルフの「戒めに」「別れ」などのユーモアとシニカルな表現を彼の映像で見ることが出来るのは貴重です。また、若かりしローマン・トレーケルに「夕星の歌」のレッスンをつける場面も長めに放送され、ローレンツの指導の仕方に穏やかな人柄があらわれているように感じました。
2番目の「音楽と詩(Musik und Poesie)」はピアニストのノーマン・シェトラーと、ヴィンフリート・ヴァーグナーのロマン・ロラン等の朗読を含んだ歌曲の夕べで、最後のブラームスとヴォルフを除いた歌曲はスタジオ録音がされていない貴重なレパートリーと思われます。
最後のシューベルトとシューマンの歌曲集はコルト・ガルベンのピアノで比較的有名な作品が演奏されています。シューマンについてもスタジオ録音されていないレパートリーと思われます。こういう映像で残されているのは歌曲のファンにとっては有難いですね。

●Siegfried Lorenz - Portrait und Lieder (VIDEO): Mozart, Bach, Wagner, Verdi, Schubert, Schumann u.a.

Channel名:Opernsänger DDR(オリジナルのサイトはこちらのリンク先)

4:26-6:13 Schumann: Zigeunerliedchen Nr. 2 "Jeden Morgen, in der Frühe", Op. 79/7b, with Norman Shetler, piano (シューマン:ジプシーの歌II)(ノーマン・シェトラー(P))

23:17-26:03 Wolf: Zur Warnung, with Cord Garben, piano (ヴォルフ:戒めに)(コルト・ガルベン(P))

28:24-31:04 Wolf: Abschied, with Cord Garben, piano (ヴォルフ:別れ)(コルト・ガルベン(P))

39:02-39:50 Wolf: Nicht länger kann ich singen (No. 42 from "Italienisches Liederbuch"), with Cord Garben, piano (ヴォルフ:もうこれ以上歌えない)(コルト・ガルベン(P))

42:39-49:42 ローマン・トレーケル(Roman Trekel)へのレッスン映像(Wagner: Wie Todesahnung - O du, mein holder Abendstern)(ヴァーグナー:夕星の歌)

49:43-52:54 Wolf: Sterb' ich, so hüllt in Blumen meine Glieder (No. 33 from "Italienisches Liederbuch"), with Cord Garben, piano (ヴォルフ:僕が死んだら体を花で覆っておくれ)(コルト・ガルベン(P))

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57:34- "Musik und Poesie" (Rostock 1985) 解説

58:09- ライヴ映像
Siegfried Lorenz, Bariton - Norman Shetler, Klavier - Winfried Wagner, Moderation
58:56- Beethoven: Mit einem gemalten Bande, Op. 83 No. 3 (ベートーヴェン:彩られたリボンで) + 朗読
1:04:58- Beethoven: Adelaide, Op. 46 (ベートーヴェン:アデライーデ) + 朗読
1:15:45- Mozart: Abendempfindung, K 523 (モーツァルト:夕暮れの情感) + 朗読
1:24:26- Schumann: Mondnacht, Op. 39/5 (シューマン:月夜)
1:28:37- Schumann: Der Nussbaum, Op. 25/3 (シューマン:くるみの木)
1:35:04- Mendelssohn: Auf Flügeln des Gesanges, Op. 34/2 (メンデルスゾーン:歌の翼に)
1:38:05- Mendelssohn: Das erste Veilchen, Op. 19a/2 (メンデルスゾーン:最初のすみれ) + 朗読
1:43:40- Brahms: Feldeinsamkeit, Op. 86/2 (ブラームス:野の孤独) + 朗読
1:51:25- Wolf: Storchenbotschaft (ヴォルフ:こうのとりの使い)

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1:56:06- LIEDER von Schubert und Schumann (1986)
Siegfried Lorenz, Bariton - Cord Garben, Klavier
Teil 1: Franz Schubert
- An die Musik (音楽に寄せて)
- Die Taubenpost (はとの便り)
- Die Forelle (ます)
- Heidenröslein (野ばら)
- Ungeduld (焦燥)
- Ständchen (セレナーデ)
- Wanderers Nachtlied I (旅人の夜の歌I)
- Wanderers Nachtlied II (旅人の夜の歌II)
- Der Musensohn (ムーサの息子)
2:19:01- Pausen-Interview mit SFB-Kulturredakteur Georg Quander!!!
2:33:34- Teil 2: Robert Schumann
- Widmung (献呈)
- Mein Wagen rollet langsam (私の馬車はゆっくり進む)
- Zigeunerliedchen I (ジプシーの歌I)
- Zigeunerliedchen II (ジプシーの歌II)
- Die Lotosblume (はすの花)
- Nachtlied (夜の歌)
- Mondnacht (月夜)
- Schneeglöckchen (まつゆきそう)
- Frühlingsfahrt (春の旅)
- Tragödie II (悲劇II)
- Lieder aus dem Schenkenbuch I + II (酌童の巻からの歌I + II)
- Freisinn (自由な心)
- Der Hidalgo (スペインの伊達男)

ローレンツはシューマン歌曲のアルバムを残さなかったのでしょうか。ちょっと調べた限りでは情報が出てきませんでした。その代わりに2001年の『詩人の恋』のライヴ音源がアップされていました。

●Dichterliebe (Schumann) - Siegfried Lorenz and Herbert Kaliga (2001)
Siegfried Lorenz(BR), Herbert Kaliga(P)
Recorded: March 24, 2001 in Coswig (Saxony)

Channel名:s w(オリジナルのサイトはこちらのリンク先)

正規商品なのか放送録音なのか分からないのですが、コルネーリウスの『クリスマスの歌』全6曲がアップされていました。これは彼にぴったりの素敵な選曲ですね。

●Siegfried Lorenz singt Peter Cornelius: Weihnachtslieder
Siegfried Lorenz(BR), Herbert Kaliga(P)

Channel名:Opernsänger DDR(オリジナルのサイトはこちらのリンク先)

ヴォルフの『イタリア歌曲集』全曲を歌っている1988年の貴重な映像があります。ローレンツのピアニストはコルト・ガルベンで、女声用歌曲はヘレン&クラウス・ドーナト夫妻の演奏です。

●Hugo Wolf: Italienisches Liederbuch (Donath, Lorenz, 1988)
Helen Donath(S), Klaus Donath(P)
Siegfried Lorenz(BR), Cord Garben(P)

Channel名:Opernsänger DDR(オリジナルのサイトはこちらのリンク先)

ジークフロート・ローレンツさんの安らかな眠りをお祈りいたします。

Hungaroton Classics: LPX 11534
11th International Music Competition, Budapest
Recorded: 1970?
Siegfried Lorenz, baritone
Herbert Kaliga, piano
Brahms: Wie bist du, meine Königin, Op. 32/9
Beethoven: Aus Goethe's Faust, Op. 75/3
R.Strauss: Ach weh mir unglückhaftem Mann, Op. 21/4
R.Strauss: Zueignung, Op. 10/1

Ars Vivendi: 2100209
Brahms: Lieder
Recorded: 1989, Studio Lukaskirche, Dresden
Wie Melodien zieht es mir, Op. 105/1
Wir wandelten, Op. 96/2
Komm bald, Op. 97/5
Trennung "Wach auf, wach auf", Op. 15/5
Trennung "Da unten im Tale", Op. 97/6
Ich schleich umher, Op. 32/3
Klage, Op. 105/3
Mondnacht
Ständchen, Op. 106/1
Auf dem See, Op. 59/2
Wie bist du, meine Königin, Op. 32/9
Von ewiger Liebe, Op., 43/1
Feldeinsamkeit, Op. 86/2
In der Fremde, Op. 3/5
Nicht mehr zu dir zu gehen, Op. 32/2
Auf dem Kirchhofe, Op. 105/4
Vier ernste Gesänge, Op. 121/1-4

ETERNA: 8 26 641
Brahms – Liebeslieder Op. 52 / Neue Liebeslieder Op. 65 (Walzer)
Recorded: 8-16 March 1974, Jesus-Christus-Kirche, Berlin
Barbara Hoene, soprano
Gisela Pohl, alto
Armin Ude, tenor
Siegfried Lorenz, baritone (Op. 52/1,3,5,14,15,18; Op. 65/2,4,14)
Rundfunk-Solistenvereinigung Berlin
Wolf-Dieter Hauschild, conductor
Dieter Zechlin, piano
Klaus Bäßler, piano

Berlin Classics – 0093972BC
Gustav Mahler - Siegfried Lorenz – Lieder
Recorded: 1/1978, Paul-Gerhardt-Kirche, Leipzig (Kindertotenlieder), 1/1979, Paul-Gerhardt-Kirche, Leipzig (Lieder eines fahrenden Gesellen),
12/1979, 1,2/1980, 12/1982, Christuskirche, Berlin (Fünf Lieder nach Friedrich Rückert)
3,12/1982, Christuskirche, Berlin (Vier Lieder aus "Des Knaben Wunderhorn")
Siegfried Lorenz, baritone
Gewandhausorchester Leipzig (Kindertotenlieder; Lieder eines fahrenden Gesellen)
Berliner Sinfonie-Orchester (Fünf Lieder nach Friedrich Rückert)
Staatskapelle Berlin (Vier Lieder aus "Des Knaben Wunderhorn")
Kurt Masur, conductor (Kindertotenlieder; Lieder eines fahrenden Gesellen)
Günther Herbig, conductor (Fünf Lieder nach Friedrich Rückert)
Otmar Suitner, conductor (Vier Lieder aus "Des Knaben Wunderhorn")

Berlin Classics: 0184142BC (8CDs)
Franz Schubert - Siegfried Lorenz, Norman Shetler – Lieder
Recorded: 1974-1987, Lukaskirche, Dresden
Siegfried Lorenz, baritone
Norman Shetler, piano
CD1: Die schöne Müllerin, Op. 25, D 795 (rec. March/1987)
CD2: Winterreise, Op. 89, D 911 (rec. Sep./1986)
CD3: Schwanengesang, D 957 (rec. Nov./1985)
CD4: 17 Lieder nach Goethe (rec. 23-26/Sep./1974)
CD5: 6 Lieder nach Schiller (rec. 17-20/May/1976)
CD6: 17 Lieder nach Mayrhofer (rec. July/1980)
CD7: 31 Lieder nach verschiedenen Dichter (rec. March/1983 (1-22), March/1977 (23-28))
CD8: 22 Lieder nach Dichtern des Freundeskreises, autobiographische Lieder (rec. March/1977 (1-8), Oct./1976 (9-22))

NOVA: 8 85 219
Siegfried Lorenz, Herbert Kaliga, Wilhelm Weismann, Rudolf Wagner-Régeny – Lieder Von Wilhelm Weismann Und Rudolf Wagner-Régeny
Recorded: 1981, Studio Christuskirche, Berlin
Siegfried Lorenz, baritone
Herbert Kaliga, piano
Wilhelm Weismann: Lieder und Balladen aus "Des Knaben Wunderhorn"
Wilhelm Weismann: Aus "Sechs Lieder für hohe Stimme"
Wilhelm Weismann: Drei Gesänge nach Worten von Friedrich Hölderlin
Rudolf Wagner-Régeny: Hermann-Hesse-Lieder
Rudolf Wagner-Régeny: Aus "Dahinter Wird Stille"
Rudolf Wagner-Régeny: Aus "Lieder der Frühe" (1924). Zwei Nietzsche-Lieder

ETERNA: 8 27 964
Hugo Wolf - Siegfried Lorenz, Norman Shetler – Mörike-Lieder
Recorded: 26-29 April 1984, Lukaskirche, Dresden
Siegfried Lorenz, baritone
Norman Shetler, piano
Hugo Wolf: 15 Mörike-Lieder

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(2024.9.7追記)

ジークフリート・ローレンツの来日公演について、東京文化会館のアーカイブで検索したところ、
1975年11月にクルト・マズア指揮ゲヴァントハウス管弦楽団の演奏会でマーラー『さすらう若人の歌』を歌い、
1979年3月には小林道夫のピアノでシューベルト『美しい水車小屋の娘』を歌い、
1987年4月にはオトマール・スイットナー指揮ベルリン国立歌劇場のモーツァルト『フィガロの結婚』でアルマヴィーヴァ伯爵を歌っていたそうです。

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(参考)

slippedisc: Death of eminent German baritone, 78 (Norman Lebrecht)

Wikipedia: Siegfried Lorenz (baritone)

Discogs: Siegfried Lorenz

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エリーの要点「25年前から乗っているトヨタ車」(Elly's Essentials; “25 year old Toyota”)

●Elly's Essentials; “25 year old Toyota”

Channel名:Elly Ameling (オリジナルのサイトはこちらのリンク先です。音声が出ます。)

(エリー・アーメリングの言葉の大意)

91歳の現在、私は25年前のトヨタ車に壊れることなく乗っています。
時々、駐車場でとなりの車に甘く軽いキスのように触れることがあります。先週かすってしまった時は損傷が全くなかったことが分かり幸運でした。私の災難は小さなものでしたが、世界中でもっと大きな災難が襲っています。それらは先の世界大戦の終焉以降、未来を予見しなかった政治への罰なのでしょうか。私が6歳の時、父が「先見の明は政府の本質だ」とよく言っていました。現在、世界中のプロパガンダと選挙制度は、民主主義が消えそうなほど腐敗しているように思えます。1990年代に賢明な私の友人が「民主主義よりも優れた制度を知っていますか」と言っていましたが、それは次の問いにつながります。「混沌(chaos)は未来の私たちの運命でしょうか」。
ところで「chaos(混沌)」という言葉は古代ギリシャ語から借用したもので、「深淵(abyss)」を意味します。
ギリシャ文明が発展したらしい空っぽの深淵は、我々の言うところの混沌、つまり廃墟となりました。古代ギリシャ人はそれを見ていました。私たちは彼らから何かを学んだのでしょうか。

(3:55- Schubert: Die Götter Griechenlands, D677)
Elly Ameling, Rudolf Jansen
Concertgebouw Amsterdam
03-02-1990

Die Götter Griechenlands, D 677
 ギリシャの神々

Schöne Welt, wo bist du? Kehre wieder
Holdes Blüthenalter der Natur!
Ach, nur in dem Feenland der Lieder
Lebt noch deine fabelhafte Spur.
Ausgestorben trauert das Gefilde,
Keine Gottheit zeigt sich meinem Blick,
Ach, von jenem lebenwarmen Bilde
Blieb der Schatten nur zurück.
 美しい世界よ、どこにいるのか?戻ってきておくれ
 自然が優しく花開いた時代よ!
 ああ、歌の中のおとぎの国にのみ
 あなたの寓話の足跡が生きている。
 死に絶えた広野は悲しみ、
 神は私の目の前に姿を現さず、
 ああ、あの生きて温かい姿の
 幻影だけが残ったのだ。

詩:Friedrich von Schiller (1759-1805), title 1: "Die Götter Griechenlandes", title 2: "Die Götter Griechenlands", written 1788, first published 1788
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828), "Strophe aus 'Die Götter Griechenlands'", D 677 (1819), published 1848, stanza 12 [ voice, piano ], A. Diabelli & Co., VN 8819, Wien (Nachlaß-Lieferung 42)

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(参考)

Elly's Essentials; “25 year old Toyota” (YouTube)

The LiederNet Archive

etymonline (chaos の語源)

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エリー・アーメリング(Elly Ameling)の「Musings on Music」シリーズ:ラヴェル-歌曲集『シェエラザード(Shéhérazade)』~3.「つれない人(L'Indifférent)」

●Musings on Music by Elly Ameling - Ravel, Shéhérazade - L'Indifférent

Channel名:Elly Ameling (オリジナルのサイトはこちらのリンク先です)

エリー・アーメリングによる説明(大意)

親愛なる視聴者様
前回の熟考(musing)シリーズではトリスタン・クリングゾル(Tristan Klingsor)の詩、モリス・ラヴェル(Maurice Ravel)の音楽による歌曲集『シェエラザード(Shéhérazade)』の2曲目「魅惑の笛(La flûte enchantée)」を聞きました。
この歌曲集は1904年に初演されました。
私は今回この歌曲集の終曲「つれない人(L'Indifférent)」について話したいと思います。
ある若い女性が男性に向けて言います。あなたの瞳は娘のように優しく、顔は魅力的だと。彼女はこの男性に家に入ってワインを飲むように誘います。しかし彼は断り、女性のような足取りで去ってしまいます。

(1:30-5:16 エリー・アーメリング、サンフランシスコ交響楽団、エド・ドゥ・ヴァールト指揮による演奏)

(5:21-7:21 アーメリングによる原詩と対訳の朗読)

※以下、原詩は著作権の都合上掲載せず、英訳詩とその重訳による私の日本語訳のみ掲載します。

Your eyes are gentle like those of a girl, young stranger,
あなたの瞳は少女のように優しい、若い異国の方、

And delicate curve of your handsome face shaded with down.
産毛で影になったハンサムな顔の繊細な曲線は

Is still more attractive in its contour.
その輪郭においてなおさら魅力的です。

Your lips chant on my doorstep.
あなたの唇は私の戸口で歌います

An unknown and charming tongue
未知の魅力的な言葉で

Like false music.
調子はずれの音楽のように。

Enter!
お入りなさい!

And let my wine refresh you.
私のワインで元気にしてさしあげましょう。

But no, you passed by
でもだめだった、あなたは通り過ぎて行きます。

And from my threshold I see you departing
私の敷居からあなたが遠ざかるのが見えます。

Gracefully waving farewell to me
優雅に別れの合図をしながら

Your hips lightly swaying
腰を軽く揺らして

With your feminine languid gait.
女性のようなけだるい足取りで。

この歌曲にp(ピアノ)の指示のない小節はありません。オーケストラも歌声もソフトに演奏します。
ピアニッシモ(pp)とピアニッシシモ(ppp)。
娘がワインで男性を誘う時の切望する気持ちと終結に向けて味わう失望-これはすべて弱音器付きです。
わずかな変化を伴ったゆっくりしたテンポとレガートが官能的な雰囲気を喚起します。
絵も見てみましょう。当時の人々や国々では、このような気分で生活するのに時間をかけました。

これからラヴェル自身による声とピアノの版を流そうと思います。
これまで述べたことで、ゆっくりしたテンポに関してはピアノでは非常に困難であることが明らかになるでしょう。
弦楽器、管楽器は長いフレーズを音を保ったまま演奏することは可能ですが、ピアノは音を発するとすぐに減衰してしまいます。
悲しいけれど事実です。
しかし、ルドルフ・ヤンセンがどれほど素晴らしく、指のレガートやペダルを繊細に用いて、ゆっくりのテンポで音を保持することに成功しているかを聞いてみましょう。
ヤンセンはこの歌に必要不可欠な官能的で規則的なレガートを作り出しています。

(9:39-13:48 エリー・アーメリング、ルドルフ・ヤンセンによるピアノ版の演奏)

お聞きの通り、テンポはオーケストラ版と全く同じでした。
そして、ほとんどの音楽では下行のみで用いられるポルタメントですが、ここで歌手は上行と下行のポルタメントを用いていました。
歌声がピアニストの演奏する和音の規則性を妨げないように、"sé-dui-sante" の "-sante" 音節の最初の拍でポルタメントを正確に終えています。

(14:27-14:56 上述箇所の演奏)

この厳密だが決して堅苦しくないテンポ、つまり拍(beat)こそが必須です。私たち演奏者は、これらの音符を伴奏付きのレチタティーヴォのように表現することは出来ません。
特徴は、古いアラビアの物語のくつろいだ雰囲気であり、音符以外にもラヴェルはスコアできわめて詳細な指示を与えています。
その後は次のように続きます-「あなたの唇は私の戸口で歌います/未知の魅力的な言葉で/調子はずれの音楽のように」
-あなたの唇は"調子はずれの音楽を"歌います。
"False (fausse)(調子はずれの)"-これは重要な言葉で声に特定の色合いを要求します。調子はずれの音楽は成功しなかった出会いそれ自体であるかのようです。和声の中の不協和音に注目してください。

(16:16-16:45 "Ta lèvre chante sur le pas de ma porte / Une langue inconnue et charmante / Comme une musique fausse"の部分のピアノ版の演奏)

その後、"Entre!(お入りなさい!)"と娘は言います。この"Entre!"という言葉には重要なグリッサンドがあるのですが、残念ながらこの録音の歌声にはグリッサンドがないのです。

(17:07-17:37 "Comme une musique fausse / Entre! / Et que mon vin te réconforte"の部分のピアノ版の演奏)

その後、3小節で彼女は彼が自分に興味を示さず優雅な女性的な足取りで歩き去るのを見ます。この男性は同性愛者だったのです。

(17:55-19:21 "Comme une musique fausse"以降歌の終わりまでのピアノ版の演奏)

よろしければ最後にもう一度曲全体を聴いて終わりにしましょう。私にとってはどちらの版にするか難しい選択ですが。オーケストラ版にします。

(19:36- オーケストラ版の全曲演奏)

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«レーヴェ「海の燐光」(Loewe: Meeresleuchten, Op. 145, No. 1)を聴く