アルミンク指揮新日本フィル/シュミット「七つの封印を有する書」(7月10日 すみだトリフォニーホール)

新日本フィルハーモニー交響楽団第448回定期演奏会
2009年7月10日(金) 19:15 すみだトリフォニーホール(1階3列3番)

フランツ・シュミット(Franz Schmidt: 1874-1939)/オラトリオ「七つの封印を有する書」(Das Buch mit sieben Siegeln)(日本語字幕付)

ヘルベルト・リッペルト(Herbert Lippert)(ヨハネ: T)
増田のり子(Noriko Masuda)(S)
加納悦子(Etsuko Kanoh)(A)
吉田浩之(Hiroyuki Yoshida)(T)
クルト・リドル(Kurt Rydl)(BS)
室住素子(Motoko Murozumi)(ORG)
栗友会合唱団(Ritsuyukai Choir)
栗山文昭(Fumiaki Kuriyama)(合唱指揮)
新日本フィルハーモニー交響楽団(New Japan Philharmonic)
クリスティアン・アルミンク(Christian Arming)(C)

--------------------

金曜日に新日本フィルの定期演奏会を聴いてきた。
曲目はフランツ・シュミットの大作オラトリオ「七つの封印を有する書」。
この曲、これまでに全く聴いたことがなかったのだが、豪華なソリスト陣の名前に惹かれたこともあって、錦糸町に出かけてきた。
聖書の黙示録をテキストにもつこの作品、プロローグと第1部が70分、休憩をはさんで第2部が50分と、かなり長大であった。

会場に入ると、アルミンクによるプレ・トークが始まるというアナウンスがあり、舞台中央に立ったアルミンクと通訳が曲の解説を始めた。
時々録音も交えて丁寧にゆっくりと語るアルミンクの解説は15分ぐらいだっただろうか。
トーク終了後、ほどなくして演奏者が舞台でそれぞれ音を鳴らしたりして短く準備した後、あっという間に本番となった。

今回は独唱者5人、オルガニスト、混声合唱団、それにオーケストラとかなりの大編成である。
シュミットのこのオラトリオはドラマティックだった。
ステージ右側に流れた字幕を追いながら音楽を聴いてみると、確かにテキストに応じた多彩な音楽が展開している。
ただ、この曲を楽しむには、テキストをよく読みながらさらに何度も聴きこむことが必要だとも感じた。
例えばドラマティックに盛り上がるところでは何度も同じような楽想がしつこいほど繰り返される。
もっと変化があった方がより聴き手を圧倒する音楽になるのではと感じたのは聴き馴染んでいないからかもしれない。

ソリストはみな熱演で満足だったが、とりわけアルトの加納悦子の深々とした声と表現力は圧巻だった。
以前ヴォルフ歌曲のコンサートで聴いて以来だったが、彼女には今後もリートをどんどん歌ってほしい。
ヨハネ役としてドラマの進行を伝える語り部のようなテノールのヘルベルト・リッペルトは、時に不安定になることはあっても全力で歌いきり、最後まで立派に務めをまっとうしたことに拍手を贈りたい。
ソプラノの増田のり子も艶々した声の響きが魅力的だったし、テノールの吉田浩之はオペラティックな表現を聴かせた。
バスのクルト・リドルは抜群の声の豊麗さとどっしりした安定感で強い存在感を放ち素晴らしかったのだが、ほかの独唱者とのアンサンブルになるとやや異質に響いた。
トリフォニーホールのオルガンは2階に設置されており、オルガニストの室住素子はストップ操作の助手とともに2階に座り、演奏していたが、オラトリオの縁の下の力持ち的な役割だけでなく、途中におかれた数曲の独奏曲が魅力的だった。
期せずしてオーケストラとオルガン・ソロの両方を楽しめたのは幸運だった。
混声合唱団も長丁場にもかかわらずよく歌っていたし、新日本フィルもアルミンクの軽快な指揮でめりはりのきいた演奏を聴かせていたと思う。

Das_buch_mit_sieben_siegeln_2009071次に実演を聴く機会があったならば、聖書の知識が乏しいので、事前に予習して臨みたいと感じた。

| | コメント (4) | トラックバック (1)

フォーレ全歌曲連続演奏会I(7月8日 東京文化会館小ホール)

フォーレ全歌曲連続演奏会I
Faure_20090708-日本フォーレ協会第XX回演奏会-

2009年7月8日(水) 19:00 東京文化会館小ホール(自由席)

Op.1-1 蝶と花
Op.1-2 五月
Op.2-1 僧院の廃墟にて
Op.2-2 水夫たち
 田中詩乃(S)中村玲子(P)

Op.3-1 ひとりきり
Op.3-2 トスカーナのセレナーデ
Op.4-1 漁夫の歌
Op.4-2 リディア
 平林龍(BR)徳田敏子(P)

Op.5-1 秋の歌
Op.5-2 愛の夢
Op.5-3 いない人
 中村まゆ美(MS)徳田敏子(P)

Op.6-1 朝の歌
Op.6-2 悲しみ
Op.6-3 シルヴィ
 安陪恵美子(S)中村玲子(P)

Op.7-1 夢のあとに
Op.7-2 賛歌
Op.7-3 舟歌
 秋山理恵(S)須江太郎(P)

~休憩~

Op.8-1 水のほとり
Op.8-2 身代金
Op.8-3 この世
 岡田理恵子(S)徳田敏子(P)

Op.16 子守唄
Op.28 ロマンス
 鈴木まどか(VLN)佐々木京子(P)

Op.61 「優しい歌」(全9曲)
 武田正雄(T)須江太郎(P)

------------------------------

水曜日に上野でフォーレ歌曲の全曲シリーズ1回目を聴いてきた。
フォーレの歌曲を作品番号ごとに異なる歌手が分担して(ピアニストはかけもちあり)、来年までの全4回で全曲演奏しようという壮大な企画である。
日本フォーレ協会の創立20周年を記念したシリーズとのことだが、フランス人によるフォーレ歌曲の歌唱を聴ける機会ですら極めて乏しい中で、日本人ばかりでこのような貴重な機会を得られたのは有難いことである。

EMIに録音されたフォーレ歌曲全集は、LP発売時は5枚組で、CD化にあたって4枚組になったが、私は1枚目の初期歌曲を聴く機会が圧倒的に多い。
「五月」「愛の夢」など珠玉のような歌曲(メロディというよりはロマンス)で大好きである。
フォーレ晩年の最低限の音を用いた朗誦に近づいた作品はフォーレの円熟を示していて素晴らしいのだが、やや晦渋な印象もあり、気楽に旋律美と和声の美しさを味わうには、初期の歌曲が一番である。

そんなわけで、今回の初期歌曲中心の選曲は私にとって次々に披露される宝物のような時間だった。
7人の歌手たちは世代も声域も異なる人たちで、それぞれ個性も異なり、バラエティに富んだ響きを味わうにはもってこいだった。
女声はメゾの中村まゆ美(味わいがあった)以外はすべてソプラノだったが、同じソプラノでも個性がみな異なり、堅実な田中、明朗な安陪、安定感のある秋山、しっとりとした岡田といった具合におのおのの良さを生かしていた。
まだ若そうなバリトンの平林龍はベルナックのような声に恵まれ、フランス歌曲との相性のよさを感じた。
そしてフォーレ中期の傑作「優しい歌」全曲を歌ったテノールの武田正雄はベテランの貫禄を感じさせ、生気みなぎる歌いぶりで感銘を受けた。

3人のピアニストもみな粒が揃った名手たちだったが、「優しい歌」などを弾いた須江太郎は音のパレットの豊かさと美しい響きでとりわけ素晴らしかった。
また、徳田敏子は堅実で丁寧な演奏ぶりが理想的な歌曲演奏を実現していたと感じた。

なお、後半でヴァイオリンとピアノのための小品2曲が演奏され、心地よい気分転換になった。

Faure_20090708_chirashiフォーレを演奏する人材がこんなにも豊富であることに感謝すると共に、彼らが今後もフォーレを歌う機会を多くもってほしいと願わずにはいられない。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

高橋節子&丸山滋/リサイタル(7月4日 津田ホール)

高橋節子ソプラノリサイタル                       
2009年7月4日(土) 18:30 津田ホール(自由席)

高橋節子(Setsuko Takahashi)(S)
丸山滋(Shigeru Maruyama)(P)

シューベルト(Schubert)
1.薔薇のリボンD280
2.最初の喪失D226
3.糸を紡ぐグレートヒェンD118

ブラームス(Brahms)
4.セレナーデOp. 106-1
5.恋人のもとへOp. 48-1
6.君がときどき微笑んでくれさえしたらOp. 57-2

7.ああ、このまなざしをそらしてOp. 57-4
8.永遠の愛についてOp. 43-1

~休憩~

ヴォルフ(Wolf)
《ゲーテ歌曲集》より
9.花の挨拶
10.アナクレオンの墓
11.とりすました娘
12.心とけた娘
 
13.ミニョンI:語れとはいわないで
14.ミニョンII:ただ憧れを知るひとだけが
15.ミニョンIII:このままの姿でいさせてください
16.ミニョン:あの国をご存知ですか

~アンコール~
1.シューベルト/ミニョンの歌:このままの姿でいさせてくださいD877-3
2.ブラームス/五月の夜Op. 43-2

-----------------------------------

津田ホールで非常に魅力的なプログラミングのリーダーアーベントを聴いてきた。
ソプラノの高橋節子とピアニストの丸山滋によるシューベルト、ブラームス、ヴォルフの珠玉の作品によるリサイタルである。
演奏者は二人とも札幌出身とのことで、この東京公演に先立って6月13日には同じプログラムで札幌コンサートホール小ホールでも演奏したそうだ。

事前に予告されていた曲目と若干の変更はあったものの、どの曲も私の大好きな作品ばかりで、次々と披露されるのを心から楽しんだ。
特にブラームスの「ああ、このまなざしをそらして」やヴォルフのミニョン歌曲群、ペアの関係にある「とりすました娘」「心とけた娘」などはなかなか実演で接する機会がない為、嬉しい選曲だった。

グリーンのドレスをまとって歌った高橋の声はソプラノ特有の清澄さと、聴き手を包み込むような深みを合わせもった魅力を備えていた。
どの音域でもその特色は保たれ、アンコールの前に聞くことの出来た地声による話し声も低めで、落ち着いたメゾソプラノのようだった。
シューベルトやブラームスでの彼女の歌唱は完璧と感じた。
スタイリッシュで美しく、かつ深みもあり、発音も明瞭で、どこをとっても安定している。
ヴォルフも前半に歌われた4曲では優しく、時にコケティッシュな表情で、彼女の幅の広さを感じた。
後半のミニョン4曲は全く破綻のない優れた歌唱だったが、多少早めのテンポ設定だった為か、私の好みではちょっとあっさりした印象を受けた。

ピアニストの丸山滋は手は大きな方ではないように見えたが、ペダルを制御した端正で引き締まった響きは、素晴らしかった。
ピアノの蓋は全開だったが、常に声に配慮しつつ、決して臆することなく起伏に富んだ響きを作り出していた。
それにしてもデリカシーに富んだ細やかなピアノの響きがどれほど歌の奥行きを深めていたことか。
特にブラームスでのちょっとした表情づけは絶妙だった(ショパン風の「恋人のもとへ」や劇的な「永遠の愛について」など)。
また、ヴォルフ「ミニョンII」や「あの国をご存知ですか」でのドラマティックな表現も、度を越えずに雄弁さを発揮した演奏だった。

アンコールの2曲もしっとりとした情感が素敵で、後味のよい締めくくりだった。
なお、配布された歌詞対訳は高橋さん自身によるもので、その意欲のほどがうかがえた。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

ホッター日本公演曲目1974年(第7回)

第7回来日:1974年3~4月

ハンス・ホッター(Hans Hotter)(BSBR)
ジョフリー・パーソンズ(Geoffrey Parsons)(P)

3月26日(火)19:00 東京文化会館(プログラム1)
3月29日(金)19:00 大阪・フェスティバルホール(プログラム1)
4月1日(月)18:30 札幌・北海道厚生年金会館(プログラム1)
4月4日(木)19:00 岡山市民会館(プログラム1)
4月10日(水)19:00 虎ノ門ホール(プログラム2)

●プログラム1 共演:ジョフリー・パーソンズ(P)

シューベルト(Schubert)/歌曲集「冬の旅」作品89[D.911](Winterreise)
(おやすみ;風見の旗;凍った涙;凝結;菩提樹;溢れる涙;川の上で;かえりみ;鬼火;休息;春の夢;孤独;郵便馬車;霜おく髪;からす;最後の希望;村にて;嵐の朝;まぼろし;道しるべ;宿;勇気;幻の太陽;辻音楽師)

●プログラム2 共演:ジョフリー・パーソンズ(P)

シューマン(Schumann)作曲
歌曲集「詩人の恋」作品48(Dichterliebe)
(美しい五月に;わたしの涙から;ばらを、ゆりを、はとを、太陽を;おまえの瞳を見つめるとき;私の心をひたそう、百合のうてなに;神聖なラインの流れの川波に;私は恨むまい;花が知っていたら;鳴るのはフルートとヴァイオリン;あの歌がひびくのを聞くと;ひとりの若者がある娘を愛した;光りかがやく夏の朝に;夢の中で私は泣いた;夜ごとの夢に;昔話の中から;あのいまわしい昔の歌も)

ブラームス(Brahms)作曲
教会墓地にて(Auf dem Kirchhofe)
いこえ、やさしい恋びとよ(Ruhe, Süssliebchen)
サッフォー風の頌歌(Sapphische Ode)
ことづて(Botschaft)

シューベルト(Schubert)作曲
「白鳥の歌」[D.957]より(From "Schwanengesang")
~愛のたより(Liebesbotschaft);春のあこがれ(Frühlingssehnsucht);別離(Abschied);鳩の使い(Die Taubenpost);彼女のおもかげ(Ihr Bild);漁師の娘(Das Fischermädchen);まち(Die Stadt);影法師(Der Doppelgänger)

(上記の演奏者名と曲目の日本語表記はプログラム冊子に従いました)

--------------------

ハンス・ホッター(Hans Hotter: 1909.1.19, Offenbach am Main – 2003.12.6, Grünwald)の第7回目の来日は前回の2年後の1974年だった(ホッター65歳)。
共演ピアニストはシュヴァルツコプフの共演者として1968年以降何度も来日しているジェフリー・パーソンズ(Geoffrey Parsons: 1929.6.15, Sydney - 1995.1.26, London)で、この同じ年の暮れにはシュヴァルツコプフの最後の来日公演のために再び来日することになるのである。

今回のツアーも、4月10日に虎ノ門ホールでシューマン、ブラームス、シューベルトによる歌曲の夕べが催されたほかはすべて「冬の旅」であり、このプログラミングがホッターの来日公演ではすっかり定着した感がある。
ほとんどの聴衆はホッターの「冬の旅」が聴きたいということなのだろう。

プログラム2では過去の来日公演で披露したもののほかに、ブラームス「教会墓地にて」「いこえ、やさしい恋びとよ」、シューベルト「別離」「鳩の使い」「漁師の娘」といった初披露の作品も含まれている。
ブラームスの選曲など、同時期にDECCAレーベルにこのコンビで録音(外国でCD化されている)したレパートリーを思い出させる。

ジェフリー・パーソンズがジェラルド・ムーア以降の最高の歌曲ピアニストの一人であることは言うまでもないだろう。
オーストラリアのシドニー生まれの彼は、ブゾーニ門下のWinifred Burstonのもとで学び、1947年のABC演奏歌唱コンクールではブラームスのピアノ協奏曲第2番を弾いて優勝。
1950年にはピーター・ドーソンとイギリス演奏旅行を行い、ヒュッシュとの「冬の旅」の共演などを経て、1961年以降シュヴァルツコプフのピアニストとなった。
日本へは1968年のシュヴァルツコプフのリサイタルに同行したのが初めてで、彼女以外の演奏家と来日したのはホッターの1974年公演が最初だった。
その後しばらく来日していなかったが、オーラフ・ベーアやジェシー・ノーマンの共演者として再来日を果たし、さらにロス・アンヘレスとも来日する予定だったがキャンセルとなり、その翌年、65歳の若さで亡くなった。
ホッターとの来日公演のころは私はまだ幼かったのでもちろん聴いていないのだが、ベーアやノーマンとの来日公演を聴くことが出来たのはかけがえのない貴重な体験となった。
実際にパーソンズの演奏を聴いて、やはりずば抜けて非凡な存在だったと感じたものだった。
その音の美しさはなかなか聴けないほど魅力的だった。
楽屋のサイン会の列に並んだ際、ベーアと楽しそうに談笑していたパーソンズの表情が思い出される。
早すぎる死が悔やまれるピアニストだった。

リサイタル・ツアーとしてのハンス・ホッターの来日は今回が最後だが、実はもう1度長い不在の期間を経て来日し、講演と小リサイタルを組み合わせた形で舞台に登場している。
その内容についてはまた次回。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

ティベルギアン/ピアノ・リサイタル(6月27日 東京文化会館小ホール)

セドリック・ティベルギアン ピアノ・リサイタル
Tiberghien_20090627東京文化会館で聴く
シリーズ「ヨーロッパ・ピアノの最先端」第2回

2009年6月27日(土) 18:00 東京文化会館小ホール(K列22番)
セドリック・ティベルギアン(Cédric Tiberghien)(P)

ブラームス/8つの小品 op.76
Brahms / Piano Pieces op.76

バルトーク/野外にて Sz.81
Bartók / Out of Doors Suite Sz.81 (Szabadban)

I. With Drums and Pipes(笛と太鼓)
II. Barcarolle(舟歌)
III. Musette(ミュゼット)
IV. The Night's Music (夜の音楽)
V. The Chase(狩)

~休憩~

バルトーク/3つのチーク県の民謡 Sz.35a
Bartók / 3 Songs from the District of Csík Sz.35a

I. Rubato
II. L'istesso tempo
III. Poco vivo

バルトーク/ブルガリアのリズムによる6つの舞曲(「ミクロコスモス Sz.107」第6巻より)
Bartók / 6 Bulgarian Dances (from Mikrokosmos vol.VI, Sz.107)

バルトーク/ルーマニア民俗舞曲 Sz.56
Bartók / Roumanian Folk Dances Sz.56

I. Stick Dance(棒踊り)
II. Braul(飾り帯の踊り)
III. The Stomper(足踏み踊り)
IV.  Bucsumi Dance(ブチュム人の踊り)
V. Romanian Polka(ルーマニア風ポルカ)
VI.Quick Dance(速い踊り)

ブラームス/ハンガリー舞曲 第1番~第10番(ブラームス自身によるピアノ独奏版)
Brahms / 10 Hungarian Dances (original version for solo piano)

~アンコール~
ブラームス/ワルツOp.39-15
ドビュッシー/スケッチ帳より

-----------------------------

1975年生まれのフランスのピアニスト、セドリック・ティベルギアンのリサイタルを聴いた。
先週のシーララに続き、東京文化会館小ホールでのシリーズ「ヨーロッパ・ピアノの最先端」の第2回目である。
シーララがまだ知る人ぞ知る存在だったのに対して、ティベルギアンはすでにCDもかなり出しているため、それなりに知られているのだろうか。
かなり席は埋まっていた。
私の席はシーララとのセット券で同じ場所だったのだが、ちょうど真ん中あたりで、手の動きも見えつつ、響きの面でもちょうどよく聴こえて恵まれた席だったように感じた。
長身のティベルギアンは、鍵盤に向かいながら、前かがみになったり、背筋を伸ばしたり、自在な動きで演奏する。
それが見た目にうるさくならず、音楽の流れと自然に連動した動きになっているのが良かった。

最初のブラームス、第1曲の「カプリッチョ」の冒頭、ゆっくりめのテンポから徐々にテンポをあげて、基本的なテンポにつなげていくという箇所など細やかな表情をつける。
8曲を通して、含蓄に富んだ響きで成熟した音楽を聴かせてくれた。
一変して、バルトークの「野外にて」は激しいリズムが特徴的な作品群。
打楽器的な要素を盛り込んでいるため、演奏者がそのように弾くのは作曲家の意思に適っているのは確かだが、ティベルギアンは激しいながらも決して汚い音にはならない。
そのコントロールのうまさに非凡さを感じた。

後半は民族色を前面に出したバルトークとブラームスの作品でまとめ、前半と好対照をなしている。
そのプログラミングは確かに良く考えられたものだったと思う。
バルトークの3つの曲集は拍手による中断もなく、若干の間を置きながら連続して演奏された。
それにしても、「チーク県の民謡」と「ルーマニア民俗舞曲」が民族色豊かで、いかにもスラヴの響きといった趣だったのに対して、
その間に演奏された「ミクロコスモス」に含まれている「ブルガリアのリズムによる6つの舞曲」は、スラヴ調というよりも、どことなくJazzyな明るさと開放感が感じられたのが興味深かった。
ティベルギアンの演奏も、そのあたりを意識した弾き方だったように感じた。

最後はブラームスの連弾用「ハンガリー舞曲」の第1番~第10番を作曲家自身がピアノ独奏用に編曲したものが演奏された。
これは、プログラムの最後に置かれるにはもってこいの気楽に聴けるエンターテインメントであった。
しかし、見た感じ、恐ろしくテクニックが要求されているようで、ティベルギアンも忙しそうに手を動かしていたが、テンポの急激な変化やリズムの扱いなども含めて、全く見事に演奏され、聴いていて思わず体を揺らしたくなるほど楽しめる音楽だった。

Siirala_tiberghien_200906_chirashiアンコールで弾かれたブラームスの有名なワルツで聴き手は癒され、続いて弾かれたドビュッシーでこのピアニストのルーツを思い起こさせて、盛況のうちにコンサートは終了した。

テクニックと音楽性が共に備わったピアニストとして、今後ますます大成していくであろう。
2週にわたっていいピアニストを知ることが出来て、満足の週末だった。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

クヴァストフ&グリモー/ブラームス&シューマン・ライヴ(ネットラジオ Suisse Romande Espace 2)

6月18日(現地時間13:30-15:00)に、スイスのネットラジオ局(Suisse Romande Espace 2)で、バリトンのトーマス・クヴァストフとピアニストのエレーヌ・グリモーによる歌曲のライヴ録音を聴いた。
詳細は以下のとおり。

-------------------

トーマス・クヴァストフ(Thomas Quasthoff)(バリトン)
エレーヌ・グリモー(Hélène Grimaud)(ピアノ)

ブラームス/「9つの歌曲(9 Lieder und Gesänge)」op.32
(なんと私は夜に跳ね起きて/もうおまえの許へは行くまい/私はあたりを忍び歩く/私のわきでざわめく小川よ/なんと辛い、おまえは私を再び/私が思い違いをしていたとあなたは言う/厳しいことを言おうとあなたは思っている/こうして僕らは立っている/なんとあなたは、わが女王よ)

シューマン/歌曲集「詩人の恋(Dichterliebe)」op.48(全16曲)

録音:2007年7月29日ヴェルビエ(Verbier)

-------------------

トーマス・クヴァストフは現代ドイツを代表する歌手の一人であるが、歌曲を積極的に歌っているばかりか、昨今ではジャズにまでレパートリーを広げているようだ。
そんな彼のスイス、ヴェルビエでのブラームス&シューマンのライヴ録音を聴くことが出来た。
ピアノは日本でも人気の高いソリストのエレーヌ・グリモーである。
以前雑誌のインタビューでグリモーが歌曲演奏をしたと話していたのでいつか聴きたいと思っていて、ようやく念願かなったところだ。

ブラームスの作品32の9曲はプラーテンとダウマーの詩により、内容的にまとまった歌曲集ではないが、暗鬱な雰囲気に始まり、最後には心が溶けていくような流れが感じられ、私の大好きなブラームス歌曲群である。
特に第1曲「なんと私は夜に跳ね起きて」は、学生時代にF=ディースカウ&ヘルのライヴ録音をFMで聴いて以来虜となっている作品である。

クヴァストフは艶のある声で重厚だが情熱的な歌を歌う人である。
テーオ・アーダムを彷彿とさせるような几帳面でストレートな歌声で、丁寧に歌い上げる。
たまに力んで声が裏返るのはご愛嬌だが、言葉を決しておろそかにせず、大切に扱っているのが伝わってくる。
「詩人の恋」も感情の襞を繊細に掬い取って素晴らしかったが、クヴァストフの良さが特に生きたのはブラームスだったと思う。
F=ディースカウの雄弁さとも、ホッターの包み込むような味わいともまた違った、実直さゆえの感動を与えてくれたように感じた。
最後の「なんとあなたは、わが女王よ」を静かに終えた後、若干の沈黙の後に静かに拍手が始まったのは、会場の聴衆がいかに感銘を受けていたかを想像させるものだった。

グリモーのピアノは、とても丁寧で余韻を大切にした演奏だった。
決してあせらず常に堂々たるテンポを維持する彼女の演奏は、すでにベテランの円熟味すら感じさせられた。
ブラームスでは作品特有のがっちりした構築感と重みを失わないまま、しなやかな柔らかさをも感じさせた魅力的な演奏だった。
シューマンでも低く移調しているハンデを感じさせない美しく優しい音色で、感情の揺れを丁寧に表現していた。
彼女は詩をよく理解した演奏を聴かせてくれて、歌曲演奏にも非常に向いているように感じた。

このラジオ放送の数日後、今度はオーストリアのラジオ局Ö1でユストゥス・ツァイエンとのライヴ録音が放送された。
真夜中だったため、前半のシューベルトとシューマンを聴いただけで寝てしまったのだが、後半はドビュッシーのフランソワ・ヴィヨン歌曲集やラヴェルのドン・キホーテ歌曲集が歌われたはずである。

クヴァストフはかつて来日公演を一度だけ聴いたことがあるが、名パートナーのユストゥス・ツァイエンと共にいい演奏を聴かせてくれたものだった。
もう随分日本に来ていないのではないか。
そろそろ再来日してくれたらいいのだが。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

シーララ/ピアノ・リサイタル(6月20日 東京文化会館 小ホール)

東京文化会館で聴く
シリーズ「ヨーロッパ・ピアノの最先端」第1回
Siirala_200906アンティ・シーララ ピアノ・リサイタル

2009年6月20日(土) 18:00 東京文化会館 小ホール(K列22番)
アンティ・シーララ(Antti Siirala)(P)

モーツァルト/グルックの歌劇『メッカの巡礼』の「われら愚かな民の思うは」による10の変奏曲ト長調
Mozart / 10 Variations on “Unser dummer Pobel meint” from Gluck's La rencontre imprevue in G Major K. 455

ブラームス/2つの狂詩曲作品79より 第1番ロ短調
Brahms / 2 Rhapsodies op. 79 No.1 in b minor

ブラームス/創作主題による変奏曲作品21-1
Brahms / 11 Variations on an Original Theme in D Major op. 21-1

~休憩~

ショパン/3つのマズルカ作品50
Chopin / 3 Mazurkas op. 50 (No. 30 in G Major; No. 31 in A flat Major; No. 32 in c sharp minor)

ショパン/ピアノ・ソナタ第3番ロ短調
Chopin / Piano Sonata No.3 in b minor op. 58

-----------------------------

ヘルシンキに生まれ今年30歳になる若手ピアニスト、アンティ・シーララのリサイタルを聴いてきた。
最近ピアノづいていて、もらうチラシを見てはどれもみな行きたくなってしまう。
シリーズ「ヨーロッパ・ピアノの最先端」の第1回目として紹介されているシーララはまだ私にとっても馴染みの薄いピアニストで、このチケットを買った後で一枚シューベルトの編曲録音のみを持っていたことを思い出したが、日本での知名度もおそらくこれからという人だろう。
人気が出る前に聴いておくのも悪くないだろうとちょっと賭けをしてチケットを買ってみた。

東京文化会館小ホールは空席もちらほらあったが、結論を先に言うと、最近聴いた中でも最も感銘を受けたコンサートの一つとなった。
登場したシーララは北欧の人らしく肌が白いのが印象に残ったが、どんな難易度の高い箇所でもポーカーフェースで涼しげな表情を崩すことがなかったのも印象的だった。
演奏する姿勢が良く、余計な体の揺れもなく、指先に集中しているのが視覚的にも良かった。
ピアニッシモを繊細に弾けるピアニストは少なくないが、フォルティッシモをしっかり鳴らしながら、きつく耳障りな音にならないようにするのは案外難しいのではないか。
その点、シーララの奏でる強音は良く響きながらも常に美しさが保たれていて、そのコントロールの見事さにまず感銘を受けた。
ブラームスのラプソディーやショパンのソナタはかなり音量の大きな箇所が出てくるが、そのどの箇所においても、すかっと抜ける音でありながら、全く汚くならない。
これは打鍵の荒さが目立ちがちな現代ピアニストの中にあっては特筆に値する美点だと思う。
それから、安定したテクニックを持っていながら、それが誇示されない点。
ブラームスのラプソディーはさくさくと早めのテンポで弾き進めるが、そこにこれみよがしなところがなく、盛り上がるところは充分盛り上げながら、過剰さは一切ない。
そのため、聴衆はブラームスの作品そのものの魅力を最大限に味わうことが出来たと思う。

後半はすべてショパンで、美しいマズルカ第32番を含む作品50の3曲と、あまりにも有名なソナタ第3番が演奏された。
シーララのショパンは一貫して作品のしもべとなった誠実このうえない演奏だった。
従って、演奏者の個性を前面に押し出した巷のショパンの演奏とは異質のものとなり、物足りなさを感じた方もいたかもしれない。
しかし、私個人としてはこういうショパンを聴きたかったという、まさに理想的な演奏であった。
一切の誇張を排した、あるがままの演奏が提示されたのは、私にとってはめったにない機会であり、ショパンのソナタが、これほどソナタらしい構成を感じさせてくれたのは目からうろこが落ちたような新鮮さだった。
多少のミスはあったものの(実演では誰もがする程度なので問題ではない)、かゆいところに手が届くような切れの良さとテクニックの安定感がありながら、打楽器的なタッチが一切ない、音楽的な美しいタッチで貫かれたのは、ただただ素晴らしいという言葉しか思いつかない。

唯一最初に弾かれたモーツァルトの変奏曲では、若干構成する変奏間のテンポのギャップが大きく感じられることがあり、作品全体の構成感という点でさらに良くなる余地を残しているように思った。
もちろんモーツァルトの誤魔化しのきかない剥き身の音を見事に美しいタッチで弾いていたことは、このピアニストの素晴らしさを予感させるのに充分だったが。

プログラミングも前半にモーツァルトとブラームスの変奏曲を両端に置き、間に対照的なブラームスのラプソディーを置くという、よく考えられたものだった。
なお、ブラームスの2曲は拍手による中断もなく、続けて演奏された。

演奏後にサイン会が予定されていたせいか、盛大な拍手にもかかわらずアンコールはなかった。
今回のプログラムは、この未知だったピアニストの凄さを感じさせるのに充分な内容で、私にとって今後来日するたびに聴きたくなるピアニストとなった。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

ホッター日本公演曲目1972年(第6回)

第6回来日:1972年4月

ハンス・ホッター(Hans Hotter)(BSBR)
トム・ボレン(Thom Bollen)(P)

4月5日(水)19:00 東京・厚生年金会館(プログラム1)
4月8日(土)18:30 新潟県民会館(プログラム1)
4月10日(月)19:00 大阪・フェスティバルホール(プログラム1)
4月13日(木)18:30 札幌市民会館(プログラム1)
4月15日(土)18:30 函館市民会館(プログラム1)
4月18日(火)19:00 東京文化会館(プログラム2)
4月21日(金)18:30 千葉県文化会館(プログラム1)
4月24日(月)18:30 仙台・宮城県民会館(プログラム1)
4月27日(木)18:30 福岡市民会館(プログラム1)

●プログラム1 共演:トム・ボレン(P)

シューベルト(Schubert)/歌曲集「冬の旅」作品89(Winterreise)
(おやすみ;風見の旗;凍った涙;凝結;菩提樹;溢れる涙;川の上で;かえりみ;鬼火;休息;春の夢;孤独;郵便馬車;霜おく髪;からす;最後の希望;村にて;嵐の朝;まぼろし;道しるべ;宿;勇気;幻の太陽;辻音楽師)

●プログラム2 共演:トム・ボレン(P)

シューベルト(Schubert)作曲
1.春にD882(Im Frühling)
2.アリンデD904(Alinde)
3.遠く離れたひとにD765(An die Entfernte)
4.死と少女D531(Der Tod und das Mädchen)
5.影法師D957/13(Der Doppelgänger)
6.ミューズの子D764(Der Musensohn)

ブラームス(Brahms)作曲
7.四十歳ともなれば 作品94の1(Mit vierzig Jahren)
8.おお,ぼくが知っていたら 作品63の8(O wüsst ich doch)
9.日曜日 作品47の3(Sonntag)
10.さびしい森の中で 作品85の6(In Waldeseinsamkeit)
11.恋歌 作品71の5(Minnelied)

ヴォルフ(Wolf)作曲
12.アナクレオンの墓(Anakreons Grab)
13.散歩(Fussreise)
14.飽くことを知らぬ恋(Nimmersatte Liebe)
15.月はいたましい歎きをかかげて(Der Mond hat eine schwere Klag')
16.ブロンドの頭をお上げ(Heb' auf dein blondes Haupt)
17.ぼくはもう床の中で・・・(Schon streckt ich aus)
18.皆さま方にセレナードを・・・(Ein Ständchen Euch zu bringen)

R.シュトラウス(R.Strauss)作曲
19.あこがれ 作品32の2(Sehnsucht)
20.天の使者 作品32の5(Himmelsboten)
21.お前,ぼくの心のかわいい冠よ 作品21の2(Du meines Herzens Krönelein)
22.ああ悲し,不幸なるわれ 作品21の4(Ach, weh mir unglückhaftem Mann)
23.たそがれの夢 作品29の1(Traum durch die Dämmerung)
24.献呈 作品10の1(Zueignung)

(上記の曲目の日本語表記はプログラム冊子に従いました)

--------------------

ハンス・ホッター(Hans Hotter: 1909.1.19, Offenbach am Main – 2003.12.6, Grünwald)の第6回目の来日は前回の3年後の1972年で、すでに63歳だったことになる。
共演ピアニストは日本での初共演となったオランダ出身のトム・ボレン(Thom Bollen: 1933.4.17, Tilburg, Holland - 2004.3.6, Amsterdam)だった。

今回のツアーも、4月18日に東京文化会館で4人の作曲家による歌曲の夕べが催されたほかはすべて「冬の旅」であり、たまには他のプログラムが聴きたいと思う人もいたのではないだろうか。
まあそれだけ「冬の旅」だとお客さんの受けがいいということなのだろうが。

プログラム2では過去の来日公演で披露したもののほかに、シューベルト「遠く離れたひとに」「死と少女」、ブラームス「さびしい森の中で」、ヴォルフ「ぼくはもう床の中で」、シュトラウス「献呈」といった初披露の作品も加えて、意欲を見せている。

トム・ボレンは、ムーアやヴェルバ等に師事したピアニストで、クム・ラウデ音楽院を卒業後、ヨーロッパ各地でソロコンサートを開き、アムステルダム音楽院賞を受賞。
オランダ国立歌劇場のコレペティートルを経て、数多くの歌手の共演者として活動した。
ホッターのほかにも、マックス・ファン・エフモント、ロバート・ホル、モーリーン・フォレスター、エルナ・スポーレンベルフなどと共演してきたという。
ホッターが、毎回ほとんど異なるピアニストを日本に連れてきたのも、実演を聴いた方の楽しみの一つだったに違いない。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

吉田 恵/J.S.バッハ オルガン作品全曲演奏会 第10回(6月13日 日本大学カザルスホール)

J.S.バッハ オルガン作品全曲演奏会 第10回
Yoshida_2009062009年6月13日(土) 19:00 日本大学カザルスホール(全自由席)
吉田 恵(Megumi Yoshida)(ORG)

J.S.バッハ(1685-1750)作曲

ファンタジー ハ短調BWV562

ノイマイスター・コラール集より
 心より慕いまつるイエスよ, 汝いかなる罪をBWV1093
 キリストよ,受難せる汝に栄光あれBWV1097
 深き淵より,われ汝に呼ばわるBWV1099
 アダムの堕落によりてことごとく腐れたりBWV1101
 よし災いの襲いかかろうともBWV1104
 ああ主よ,哀れなる罪人われをBWV742
 いまぞ身を葬らんBWV1111
 人はみな死すべきさだめBWV1117

プレリュードとフーガ ハ短調BWV546

~休憩~

協奏曲ニ短調BWV596

ああ主なる神よBWV714
キリストは死の縄目につながれたりBWV695
キリストは死の縄目につながれたりBWV718
われ汝に別れを告げんBWV735
われ汝に別れを告げんBWV736

プレリュードとフーガ ロ短調BWV544

~アンコール~
装いせよ汝,おお愛する魂よBWV654

---------------------------

オルガニストの吉田恵が2004年に始めたというバッハオルガン作品全曲演奏会の第10回目を聴いてきた。
5月のラ・フォル・ジュルネではバッハがテーマでありながらオルガン曲を聴けなかったのが物足りなかったので、今回のこの演奏会は早くからチェックしていた。
彼女のほかに椎名雄一郎も12回にわたるバッハ連続シリーズを継続中で、前回聴こうと思ったのだが完売だったので、次回までお預けである。

今回の吉田さんの演奏会、バッハの全曲シリーズというだけでもその志の高さに感銘するのだが、来年残念ながら閉館の予定という日大カザルスホールのアーレント・オルガンを演奏してくれるのがうれしい。
私も日大の所有になる前は何度かこのホールに足を運んだものだが、オルガン演奏はおそらく聴いていなかったと思う。
今回は自由席なので、2階に据え付けられたオルガンが見やすいように2階席左側で聴いた。

カザルスホールのオルガンはバッハの時代当時のオルガンを復元したものとのことで、パイプはすべて木の枠に上向きにきっちり収まっていて、2階の壁から出っ張った木のボックスごと一つの楽器という印象である。
華美な装飾があるわけでなく、一見こじんまりした印象すら受けるこの楽器がどのような音を出すのか興味津津で開演を待った。

吉田さんはストップ操作の女性を伴って登場した。
吉田さんが左側の音栓、助手の女性が主に右側の音栓を準備して演奏がはじまる。
最初の「ファンタジー ハ短調」が静かに鳴った瞬間、その優しい響きに魅せられた。
吉田さんの演奏はとても良く回る指で軽快に進められる。
テクニック的に全く危なげない指使いとペダリング(このオルガンは足が聴衆から全く見えないつくりになっているのがちょっと残念)で、オルガンの多彩で優しい音色を見事に引き出していたと思う。

「ノイマイスター・コラール集」は、プログラムノートの金澤正剛氏によると、アメリカ、イェール大学の図書館で1984年に発見されたばかりの作品集で、手写した人の名前をとって「ノイマイスター・コラール集」と呼ばれるようになったそうだ。
この中から8曲が演奏されたが、どれも短く親しみやすい曲である。
かつて偽作説があったという「ああ主よ,哀れなる罪人われを」はそういわれてみるとバッハっぽくない感じもするが、「ノイマイスター・コラール集」に含まれていたことでバッハの作品と確認されたそうだ。

前半最後の「プレリュードとフーガ ハ短調」はドラマティックで悲痛な雰囲気が胸に迫ってくる。
吉田さんの演奏はプレリュードとフーガの間で若干の間を置きながらも、流れが中断されないように演奏していたように感じた。

後半最初の「協奏曲ニ短調」はヴィヴァルディの「調和の霊感」第11曲を編曲したもの。
バッハはこのようにヴィヴァルディの研究に勤しんでいたが、研究のための編曲ということでオリジナルに忠実なものになっているようだ。
曲調がほかの作品と違うので、バッハだけで組まれたプログラムでちょっとした気分転換になった気がする。

その後には若いころにバッハがつくったコラール作品5曲。
こちらは「ノイマイスター・コラール集」と違って1曲1曲がしっかりした長さをもっている。
オリジナルのコラールを知っているとさらに楽しめるのだろう。

最後の「プレリュードとフーガ ロ短調」は壮大な作品である。
金澤氏も「バッハ後期の代表作」と表現しておられる。
後半のフーガの主題は「コンドルは飛んでいく」みたいで覚えやすい。
この主題が次々とフーガになって展開していき、素敵な作品であった。

アンコールで弾かれた小品も穏やかで優しく心地よい気持ちになった。
カーテンコールで何度も呼び戻された吉田氏は、アーレント・オルガンにも手をかざして、楽器とともに拍手にこたえていたのが印象的だった。
華麗すぎない、いぶし銀のような優美な音色に心癒された時間を過ごすことが出来て、満足して家路につくことが出来た。

カザルスを記念したこのホール、開演を知らせるベルの代わりにカザルスゆかりの「鳥の歌」のメロディが流れ、このホールでカザルスの盟友だったあのホルショフスキーも演奏したのだと思うと、やはり感慨深いものがある。
それにしても、このオルガンは閉館後にはどうなってしまうのだろう。
解体ということにはならないことを祈りたい。

Yoshida_200906_chirashi_2

| | コメント (4) | トラックバック (0)

ホッター日本公演曲目1969年(第5回)

第5回来日:1969年3~4月

ハンス・ホッター(Hans Hotter)(BSBR)
ハンス・ドコウピル(Hans Dokoupil)(P)

3月18日(火)18:30 名古屋・愛知文化講堂(プログラムA)
3月20日(木)19:00 東京文化会館 大ホール(プログラムA)
3月22日(土)18:30 仙台・東北大学川内記念講堂(プログラムA)
3月25日(火)19:00 東京文化会館 小ホール(プログラムB)
3月26日(水)18:30 福岡市民会館(プログラムA)
3月28日(金)18:30 札幌市民会館(プログラムA)
3月29日(土)19:00 大阪・フェスティバルホール(プログラムA)
3月31日(月)18:30 横浜・神奈川県立音楽堂(プログラムA)
4月2日(水)19:00 東京文化会館 大ホール(プログラムA)

●プログラムA 共演:ハンス・ドコウピル(P)

シューベルト(Schubert)/歌曲集「冬の旅」作品89(Winterreise)
(おやすみ;風見の旗;凍った涙;凝結;ぼだい樹;あふれる涙;川の上で;かえりみ;鬼火;休息;春の夢;孤独;郵便馬車;霜おく髪;からす;最後の希望;村にて;あらしの朝;幻;道しるべ;宿;勇気;幻の太陽;辻音楽師)

●プログラムB 共演:ハンス・ドコウピル(P)

シューベルト(Schubert)作曲
1.人間の力の限り(Grenzen der Menschheit)
2.春の小川に(Am Bach im Frühling)
3.泉に(An eine Quelle)
4.ドナウにて(Auf der Donau)
5.ひめごと(Geheimes)
6.ヘリオポリス(第2曲)(Heliopolis II)

シューマン(Schumann)作曲
7.新緑(Erstes Grün)
8.だれがおまえを悩ますのか(Wer machte dich so krank?)
9.古いリュート(Alte Laute)

ブラームス(Brahms)作曲
10.喜びに満ちたぼくの女王よ(Wie bist du, meine Königin)
11.早くおいで(Komm bald)
12.メロディーのように(Wie Melodien zieht es mir)
13.セレナーデ(Ständchen)
14.愛の歌(Minnelied)

R.シュトラウス(R.Strauss)作曲
15.夜(Die Nacht)
16.みつけもの(Gefunden)
17.胸の思い(All mein Gedanken)
18.夜の散歩(Nachtgang)
19.憩え,わが魂(Ruhe, meine Seele)
20.陽の光の中に(Im Sonnenschein)

レーヴェ(Loewe)作曲
21.魔王(Erlkönig)
22.追いかける鐘(Die wandelnde Glocke)
23.婚礼の歌(Hochzeitlied)

(上記の曲目の日本語表記はプログラム冊子に従いました)

--------------------

ハンス・ホッター(Hans Hotter: 1909.1.19, Offenbach am Main – 2003.12.6, Grünwald)の第5回目の来日は前回の2年後の1969年だった。
共演ピアニストは日本では初共演となったハンス・ドコウピル(1921, Olmütz - 1971?)がつとめ、全9公演中8公演で「冬の旅」を歌い、東京で1度だけ様々な作曲家による歌曲の夕べが開かれた。
今回もほとんど「冬の旅」ツアーと言ってもいいくらいだが、4月2日の公演はCBS SONYがライヴ収録して、ホッター4度目の「冬の旅」録音としてCD化もされて高い評価を得ている。
しかし、「冬の旅」の影に隠れているが、3月25日のプログラムBの公演も録音されており、LPで発売されたのは案外知られていないのではないか。
こちらは未だにCD化されておらず、復活を望んでおきたい。

プログラムBは東京文化会館の小ホールの限られた聴衆しか聴けなかった貴重なプログラムと言えるだろう。
ホッターの十八番が並んでいる選曲は魅力的だが、中でもシューベルトの選曲はこれまでの来日公演では披露されていないレパートリーばかりで、ホッターの意欲が伝わってくる。

故ハンス・ドコウピルはバリトンのエーバーハルト・ヴェヒターなどとの共演でも知られるピアニスト。
随分前に老舗中古レコード店(もう閉店してしまった)でドコウピルをフィーチャーした輸入盤LPを見かけたが、高価だったため購入しなかった。
いつかまた見つかるといいのだが。

--------------------

(2009年6月27日追記)

3月25日のリサイタルのライヴ録音について、シューベルトの6曲は「冬の旅」の2枚組LP(SONC-16007~8)の第4面にカップリングとして6曲とも収録されて発売されたようだ。
それ以外の作品については、以下のLPに収録されていることを確認した(今日、資料室で実物を聴いてきた)。
プログラム冊子でのブラームスの曲順と入れ替わっている(2番目に置かれていた「早くおいで」が最後になっている)のは、拍手の感じからすると、LP用の編集というよりも実際に入れ替えて歌われたような気がする。
R.シュトラウスの最後に予定されていた「陽の光の中に」が省略されているのは時間の都合だろうが、それ以外は完全に収録されている。
ホッターもドコウピルもライヴゆえのミスはあるものの、当日の雰囲気が伝わってくる貴重な記録である。
すでに盛期を過ぎたと言われたものの、まだまだ充分見事な張りのある歌を聴かせてくれる。
SONYさん、ぜひCD化を!

ハンス・ホッター ドイツ・リートの夕べ-東京公演実況録音盤 1969.3.25
HANS HOTTER IN TOKYO Vol.2: DEUTSCHE LIEDER ABEND

CBS SONY: SONC-16013-J (LP)
ライヴ録音:1969年3月25日、東京文化会館小ホール

ハンス・ホッター(Hans Hotter)(バス・バリトン)
ハンス・ドコウピル(Hans Dokoupil)(ピアノ)

●A面
シューマン(Schumann)作曲
1.新緑 作品35の4(Erstes Grün)
2.だれがあなたを悩ませたのか 作品35の11(Wer machte dich so krank?)
3.古いリュート 作品35の12(Alte Laute)

ブラームス(Brahms)作曲
4.喜びに満ちたぼくの女王よ 作品32の9(Wie bist du, meine Königin)
5.メロディーのように 作品105の1(Wie Melodien zieht es mir)
6.セレナード 作品106の1(Ständchen)
7.愛の歌 作品71の5(Minnelied)
8.早くおいで 作品97の5(Komm bald)

●B面
R.シュトラウス(R.Strauss)作曲
9.夜 作品10の3(Die Nacht)
10.みつけもの 作品56の1(Gefunden)
11.胸の想い 作品21の1(All mein Gedanken)
12.夜の散歩 作品29の3(Nachtgang)
13.憩え,わが魂 作品27の1(Ruhe, meine Seele)

レーヴェ(Loewe)作曲
14.魔王(Erlkönig)
15.追いかける鐘(Die wandelnde Glocke)
16.婚礼の歌(Hochzeitlied)

アンコール
R.シュトラウス(R.Strauss)作曲
17.汝(なれ)こそわが心の冠 作品21の2(Du meines Herzens Krönelein)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

«ルイサダ/ピアノ・リサイタル(6月11日 川口・リリア音楽ホール)